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水の中のつぼみのtetsuのレビュー・感想・評価

水の中のつぼみ(2007年製作の映画)
4.0
『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督作品が気になり、復習として鑑賞。


[概要]

セリーヌ・シアマ監督のデビュー作で、唯一、日本でソフト化されている長編映画。2007年のカンヌ映画祭"ある視点"部門でも正式出品された。ジュニアの女子シンクロチームに所属するフロリアーヌと彼女に憧れる少女・マリー、その親友・アンヌの思春期を描く。


[感想]

「シンクロチームの演技をみつめる主人公」という冒頭シーンからも明白だが、この時点で「音」や「視線」へのこだわりが一貫していて驚く。

『燃ゆる女の肖像』と比べれば、芸術的側面は抑えられ、より、シンプルなドラマ映画という趣が強いものの、「同性愛」を描いた物語や、「まなざし/まなざされる関係性」という部分が共通しており、原点となる作品であることに間違いはなかった。

また、作品の描き方としては「思春期の性への戸惑い」という部分が強く表れており、「自立した大人の女性像」が感じられた『燃ゆる女の肖像』とは、対比的に語ることの出来る作品とも言える。

インタビューなどからは、監督が過去の経験を色濃く反映する映画作家であることが分かるため、一貫したテーマを描きつつ、その価値観を深化させていく誠実さに好感を持った。


[監督とアデル・エネルの関係性]

『燃ゆる女の肖像』同様、本作でも、主人公が思いを寄せる女性として、アデル・エネルさんが登場。

自身もレズビアンであり、のちにアデル・エネルさんと私生活のパートナーになった監督ゆえ、その魅力が存分に写し出されており、やはり、信頼関係があってこそ、役者の魅力は最大限に発揮されるのだろうなぁと思った。

ちなみに、監督が彼女を念頭に描いた『燃ゆる女の肖像』では、その製作を前にパートナーという関係性を終わらせ、互いを刺激し合う協力者になったとのこと。

その事実を知った上で『燃ゆる女の肖像』を観ると、より、作品の描いていたものが、深く胸に突き刺さるようにも思った。


[おわりに]

中盤の会話シーンで「日本版タイトルの意味、ど下ネタかよっ!笑」と突っ込みたくなるものの、最後まで観ると、意味合いが変わり、腑に落ちるものがある本作。

日本では避けられる大胆な性描写や、一種、狂気的にさえ感じる愛情表現など、好き嫌いは別れそうではあるものの、フランス映画好き、もしくは、松居大悟監督辺りの日本映画を好きな人には、意外とハマるのではないかなぁ~と思うフランス青春映画の傑作だった。


参考

『水の中のつぼみ』セリーヌ・シアマ監督&アデル・ヘネル
日本初レズビアン&クィアカルチャーWebマガジン|TokyoWrestling.com
http://www.tokyowrestling.com/articles/2008/07/tsubomimovie_1.html
(本作公開当時のインタビュー。近年、アデル・エネルさんがカミングアウトした過去について知っていると、質問に対する回答の真意が分かり、正直、胸が痛いです。)

【CINEMA ACTIVE! 撮る人々】カンヌ映画祭で絶賛されたセリーヌ・シアマ監督が 女性監督として思うこと
https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a34855511/cfea-cinema-active-celine-sciamma-20-1204/
(『燃ゆる女の肖像』公開後の監督に関する特集記事。)
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