砂場

非常線の女の砂場のレビュー・感想・評価

非常線の女(1933年製作の映画)
4.8
超傑作❗️
セリフが刺さりまくる(ただし臭み強し)
まずはあらすじから


ーーーあらすじーーー
■会社の重役室、親父は?社長はまだお見えでないです、、
社長の息子実(南條康雄)は会社の重役ポスト、秘書に
時子(田中絹代)を呼んでくれと頼む。タイピストの時子は緊張しつつ役員室に、実はいきなり大きなルビーの指輪をプレゼント、時子はお返ししますわ、実は時子を気に入っており、お茶をする。尾行するソフト帽の二人の男。
姉御、カモを見つけたらしいな、ばか社長の息子だよ
ソフト帽の二人と時子は合流、時子は裏社会で姉御と呼ばれていた
■ボクシングジム、襄二(岡譲二)にカムバックしないのかと仲間は言う
襄二はボクサー崩れ、今は裏社会に生きるのであった。時子は襄二の情婦だった。
■ダンスホールでチンピラが揉めており、襄二が三人を叩きのめす
襄二に憧れた若い青年宏(三井秀男)がやってきて、仲間にしていただきてえんですが
襄二は若者を裏社会に入れることに躊躇するが、熱心な宏を舎弟にする
■宏は、ビクターのレコード店で働く姉和子(水久保澄子)のところに、
姉さん少しお金欲しいんだけど、和子は最近の弟の行動が心配、悪い友達でも、、、
宏に聞くと、襄二さんの身内だレフトの宏ってんだと意気揚々と答える
和子は襄二のところに来て、たった一人の弟なんで、あなたからおしゃってください、足を洗わせて欲しいと頼む
こっちでひっぱてるわけでなし、襄二は冷たくいうが和子の清楚な姿に心を動かされる
■兄貴はひろ公の姉貴にご執心だってよという噂、時子はそんなことでと余裕の表情
■襄二は和子のレコード店に来て、試聴ブースでレコードを聞いている。
和子はあなたはわざとそんなふうにしている、襄二の真摯な内面をいい当てた、神様がこしらえた中でも音楽は出来がいい方だぜ、襄二はすっかりクラシックのレコードに夢中
■時子は、あたいだってお前さんの顔をたてて来たんだと和子に嫉妬心を燃やす、ピストルを取り出すと出ていく時子
折り入ってお話が、時子と和子は街角で話し込む、
あたいたち敵同士かもね、やおらピストルを出すと和子に向ける、和子は動じる気配がない
ピストルをしまい、時子は和子に近寄ると、キス、あんたが好きになっちゃった
■時子は和子に影響され、靴下編もうと思って、朝早く起きて
あなたもう荒い仕事しなくても、、これまでこんなこと言ったことないわ
和子さんの真似て見たいの、どうせあたいはズベ公だよ、荷造りして出て行く
■一人寂しく、時子はビアホールにいると稔が誘ってきた
■襄二はバーでグラスを10個注文し1個ずつ割る、
■社長の息子と時子はホテルにいた、私とてもばかよ、私とても贅沢よ
呆れた女だと思うでしょ、そんな時子に好意を持っている実は時子を抱こうとするが、時子はプレゼントされた指輪を返し、帰らせていただきますわ
■襄二とクラス部屋に戻ってきた時子、妬きなさい!もっと可愛がってよ
そこに和子が訪問、弟が来ませんでしたか?
最寄りの交番へでも届けるんですな、冷たく和子を突き返す、
どうせ俺たちは与太者だ
まともになろうよ、今日限り足洗ったぜ、飛びついてこい
■宏がレコード店の金を使い込んだと言う、それでも男か!宏をぶん殴る襄二だがなんとか金を工面してやるつもりだった。
襄二はもう一度だけ仕事だ、男は義理といううるせえものがあるんだ、



<💢以下ネタバレあり💢>
■時子は会社の重役室でやおらピストルを取り出し実を銃で脅し財布から金をとる、その金を宏にわたし、姉さんを大事にしろよ、、和子には弟を大事にしろよと言い去っていった
部屋の外には警察、逃げるぞ何ぐずぐずしてんだ、時子は
いっそのことつかまっちまおう、出直そうというが襄二は捕まる気はなかった、つかまっちまおうよ、時子はピストルで襄二の足を撃つ
一生追われてる身よ、つかまっちまおう、お互いにまだ若いし、2、3年だけだよ、向こうから警察が、観念した襄二と時子、
2、3年は別れ別れだ、飛びついてこい、、、連行される二人
■二人の部屋には手編みのマフラー、警察は部屋を出る
ーーーあらすじ終わりーーー


🎥🎥🎥

超傑作❗️

蓮實重彦が「監督 小津安二郎」でポール・シュレーダーの小津論を批判していたのを思い出す。
ポール・シュレーダーは戦後の小津作品に”日本的もののあはれ”を見るのであるが、ポール・シュレーダー
は「非常線の女」を見てないのではないか、小津=もののあはれなんて見方は紋切り型であって、、
云々かんぬんと蓮實らしくチクチクやっていた。
確かにこの「非常線の女」は日本的ではない、全体のルックはアメリカンな雰囲気に見えるが
どことなくフリッツ・ラングなどヨーロッパの構成美も感じる不思議な空間造形。
でも、純和顔の田中絹代の存在もいるし、日本でもどこでもないどこか、、みたいな舞台に見える。

田中絹代が全然情婦には見えないがギャップが色々すごい。この少年のような可愛いルックスだったら
OLやってても絶対に裏社会にいるとはバレないし見事な擬態である。
二度ほどドレスのショルダーが一瞬落ち、白い肩が露出する場面があり、ギャップによるセクシー効果が
グンバツである。これは小津先生意図的なんだろうな、、
また不似合いなピストルをそろりそろりと取り出すところもギャップに萌える。

水久保澄子は正統派美人であり田中絹代より押し出しが強い。普通に考えると逆の配役でも良さそうなもの
だがそれだとギャップにならないからな
田中絹代が半ばおどおどしながらピストルを撃つのに比べて、水久保澄子は鋭い言葉をいきなり岡譲二
に撃ちこむのである。
一瞬見ただけで、あなたはわざとそんなふうにしている、と言うように襄二の真摯な内面をいい当てるのだった。
こんな風に言われたらグラッとくるわ

この映画はセリフが相当かっこいい

神様がこしらえた中でも音楽は出来がいい方だぜ

これはやられる、、レイモンド・チャンドラーもびっくりのセリフだ。こんなこと言ってみたいもんだぜ!
あと、時子(田中絹代)が襄二(岡譲二)に向かって

妬きなさい

いや〜これは日本映画史に残る名セリフだと思う。嫉妬するかどうかは襄二の内面の問題で、他人から命令形で言われたところで、はいわかりました妬きますとはならないだけどもそれでも言い切ってしまうこの女王的な強引さ
一方で、命令しないと妬いてくれないという状況を認めているとても惨めなセリフでもある。
この強引さと惨めさが渾然一体となった決め台詞はやはり名女優田中絹代しか発せられないのだ。

本作はハードボイルドな外観であるが、逃避行のところはアメリカンニューシネマの先駆けのようでもある。
小津っぽいかどうかはさておき、純粋に一本の映画としてメチャクチャかっこいいし面白い。
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