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ラルジャンのHKのレビュー・感想・評価

ラルジャン(1983年製作の映画)
4.2
『少女ムシェット』『ヴァルサダールどこへ行く』などのロベール・ブレッソン監督によるフランス映画。キャストはクリスチャン・パティ、カロリーヌ・ラング、バンサン・リステルッチなどなど

とある高校生がお金が足りず親に無心をするが断られ、友人からお金を借りるが何とそれは偽札だった。高校生は写真屋でその偽札を知らずに使用し、偽札は巡り巡って燃料店の従業員が飲食店で使用した所で判明し告発される。無実の罪で投獄された従業員は失意のうちにとんでもないことに…

孤高のテクニックで世界を魅了したロベール・ブレッソン監督の遺作にして、最高傑作と称される。黒澤清監督作の『CURE』の元ネタとも噂される、人間の無意識下にある本質的な闇を大々的に扱った作品である。

ロベール・ブレッソンと言えば、科学者のように冷徹な観察眼でひたすら物事の出来事を記録的に断片だけ見せることによって、物語を構築していくスタイル。特に体のメカニカルなアクションを繋げることによって見せるのがとても良いんですよね。

ハネケが自分の映画を語る際に言ったように『説明は物語を矮小化する』ということを言っていました。その名の通り、あくまで映画内では断片、特に手の動きにフォーカスすることによって映画内における雑念みたいなものを全て取り払っている。

特にブレッソンと言えば『スリ』とかからもそうですけど、ひたすら手の動きにフォーカスしているように思える。今回のATMでの手の動きやイヴァンがお店の店員に殴りかかる際も手の動きのみにフォーカスしていたのがとても良い。それがちょっとばかりにくどくも見えるがこれくらいでよい。

音に対する拘りも随一で、特に車のエンジン音などの都会的な雑音を使いリアリズムを出しながら扉の開閉音と同時にそれを消させ、一気に場の静謐観をクライマックスにさせる演出が素晴らしかったですね。

特に個人的にすごいと思ったのはやはり終盤のイヴァンの例のアレですね。ジャンヌダルク裁判とかもそうですが、あくまで一番凄惨な出来事を見るのは犬なのがブレッソンのもう一つの特徴とでも言いたくなるわ。

Ou est l'argent? からの扉の閉まる音からの斧を振りかぶって犬が鳴いてランプが割れる音から僅かに間を置いての斧が川に捨てられる音のリズミカルに構成されながらも静謐観が増すのあの虐殺のシークエンスは溜まらない。やはりあのシークエンスのために映画というのが存在する。

『セブンスコンチネント』などでハネケが恐らくこういうブレッソンの映画からインスピレーションを受けたであろう、日常生活の断片を描いているだけにも関わらず不穏な雰囲気を出させる演出もすごい。

ピアノからワイングラスが落ちて割れる。割れた後のグラスを掃除するおばさんの手、他にもおじさんが平手でおばさんを殴った後におばさんが持っている器の水がぽちゃんと零れ落ちるのも何かの隠喩のようにも感じさせる。

ひたすら生活音だけながらもその全てがあの凄惨な最期に意味づけられるように結びついてしまう。物語が一体何をもって構成されているのか、その形式をひたすら断片化に集中して作り上げたブレッソンの最高傑作だと思いますね。

視覚的なアクションの見せ方もブレッソンは本当にかっこいいなと思いましたね。勢いよく落ちて地面を滑るように移動する鉄ヘラだけでもかっこいい。前述した殺戮シーンも扉の開閉音で見せるのだから素晴らしい。

とにかく省略して、対象を断片化させることによって演劇とは全く異なった演出で映画を構成することにはブレッソンを除いて、恐らく誰一人達成できていないと思っています。初期のハネケとかだったら達成できたのかもしれないけど。

いずれにしても見れて良かったと思います。いかに映画における演劇的作法がくだらないか、ブレッソンの映画を見てしまうと体感できてしまうのですよね。素晴らしいシネマトグラフでした。
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