踊る猫

秋刀魚の味の踊る猫のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
3.8
むろん、この映画が公開され受け容れられた時代と今は決定的に価値観が異なる。だがそれを割り引いても、この映画で体現されているのは実は一種の「男たち」だけのファンタジーではないかという疑念が拭い去れなかった。それは冒頭の(今なら完全にセクハラと認定されるだろう)雑談に始まり、「男たち」が酒席で交わす猥談(むろん、小津の猥談はそんなに下衆なものではないのだが)で更に展開される。批判したいわけではない。最後まで観れば、小津が描きたかったものが実はそんな「男たち」のホモソーシャルな世界の煌めきが瓦解したあとの、「独りぼっち」の男/人間の孤独であることがはっきりする。いずれは自分の愛おしい娘であっても子離れしなくてはならず、また場合によっては彼女が結婚するのを見届けなければならない辛い思いをしなくてはならない。そんな辛い別離を後半に描くことで(しかし、むろん小津だから喜劇的タッチを忘れることがないのが美質だ)、この映画の「男たち」の本音トークの他愛もなさはむしろ「カワイイ」とさえ言えるものとして昇華されていると思う。だが、それを踏まえてもやはりこれはまずいのではないか、と疑念を捨てられないこともまた確かだった。
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