む

秋刀魚の味のむのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
3.8
小津安二郎監督作品2作目の鑑賞。前回観た「おはよう」は、子供を中心とした昭和の生活が描かれており、命の水々しさがあったが、今作は「老い」や「孤独」「寂しさ」などが描かれていて、なんとも枯れ枝のようだった。


全編通して、男は気楽で何もしやしないといった風で、一見品がありしっかり者そうな笠智衆が演じる父親も、娘を便利に扱うなど、令和ではとても受け入れられない昭和の男性像が映し出されている。

父親の周りには、自らの過去と未来を物語るように、「若い長男夫婦」と「ヤモメの恩師ひょうたん」といった役が配置されている。
小言を言い合う若い長男夫婦が、実は今が人生の輝かしい瞬間だと気づかされ、家と会社と呑みの往復を淡々としていく父親は、安泰なようで人生の魅力は陰っていた。

…こんな風に書くと父親が悪いようだが、そんなことはなく、これもまた人生の情緒であって、日常を切り抜く小津安二郎の審美眼は鋭い。


「秋刀魚の味」ってどんな味だろう?と考えてみると、「短い旬」と「はらわたの苦味」かなと想像した。
なるほど。娘の婚期と送り出す父親の心情というものが、秋刀魚には込められているのだろうか。
今度から秋刀魚を食べる時は、美味しさよりも哀愁を感じてしまうかもしれない。
む