ろ

ペパーミント・キャンディーのろのレビュー・感想・評価

4.9

あの日に帰りたい、と思っても、わたしたちはもう一度やり直すことができない。
あの時もあの時も、と指折り数えながらも生きてゆく。
それでも、人生は美しいだろうか。


スーツ姿でピクニックにやってきたキム・ヨンホ。
20年ぶりに再会した元同僚たちをよそに、一人 列車の前に立ちはだかる。
そして泣きながらこう叫ぶのだ。
「帰りたい!帰してくれ!」

散る花びらは、煙突の煙は、もと来た道を辿っていく。
そうしてわたしたちを乗せた列車は、時間を巻き戻していく。


病に臥せる初恋の人。
浮気をした妻と浮気をする自分。
刑事時代の過酷な拷問。
彼に何があったのか、なにが彼を追い詰めたのか。
わたしたちはどんどん想像をする。

遠くから訪ねて来た初恋の人をそっけない態度で返したあの日。
そんなつもりはなかったのに奪ってしまった命。
想像すればするほど切なくなる。
そうして気付いていく。
ヨンホにとって帰りたいあの日は一つじゃないことに。


輪になって歌った曲をまるで覚えていない元同僚たち。
チェーンロックの隙間から触れる犬の毛並み。
バックミラーに映る、こめかみに銃を突きつけた私。

美しいものを美しいと素直に喜べたあの日。
あの日にはもう戻れない。




( ..)φ

どん底から始まって、一番の幸せで終わる。
残酷な映画だった、本当に。

この映画は「あれもこれも全部自分の選択(責任)なんだ」という事実を突きつけてくる、こちらが目をそらせないぐらいに。それもいじわるに突き放す感じじゃなくて寄り添いながら。だから余計に悲しくて切なくてたまらない気持ちになる。

悲しくて悲しくて、列車に向かって走るのに、みんなチャンチャカ踊っている。
主人公が遠く、たった一人フレームアウトするあのカットからもう、心を掴まれてしまいました。
ろ