クシーくん

さらばラバウルのクシーくんのレビュー・感想・評価

さらばラバウル(1954年製作の映画)
3.6
ラバウル戦線に生きた軍人と人々を描く、本多猪四郎&円谷英二の東宝特撮黄金コンビに脚本は橋本忍、主演に池部良と、この時期の東宝THE・王道作品。表面的にはいかにも戦後映画らしい、戦争の無謀さ、虚しさを語りつつ、恋愛要素を交えて娯楽作品的要素でデコレーティングしている反面、本作の公開年まで占領していた米軍への怨嗟の様な念や、失われていった人々への懐旧と懺悔を思わせた。

相当なベテランだと思っていた敵機「イエロースネーク」のパイロットが実は開戦と同時に戦闘機に乗り始めたばかりの元冷蔵庫セールスマンだったというのも皮肉だし、そのパイロットが「人命を軽視するような国は勝てない」と言うのを、それを翻訳した日本の記者の口から言わせるのがなんとも戦後的。若林大尉(池部良)の中では精神的に大打撃を受けるターニングポイントでもあるのだが、このシーンを当時の観客がどう受け止めていたのかは気になる所。

池部良は俳優の身でありながら、終戦時には中尉にまで上り詰め、文字通り南方で死線を潜った人物という事もあり、本作で見せる軍隊流の声の張り方や、将校の尊厳有る態度などとても上手い。いや、当時の軍隊がどんな風か見知っている訳では勿論無いんだけど恐らくこうだったんだろうなと思わせる説得力が凄まじい。

恋愛描写が分かりにくいという向きも聞こえそうだが、この戦前の雰囲気というか、最後まで自分達の想いを明かさない奥ゆかしい感じ好きだなあ。手すら握らないんだぜ。純情派もここまで行くと天晴だよ。岡田茉莉子が凛として美しいし、彼女の生きていて下さいという声は転がる鈴のように軽やかなのに、永訣の言葉である事を強く示し、悲壮な想いを同時に感じさせる名演技。船上で皆がラバウル小唄を歌うのも凄絶。あんな陽気な流行歌を悲しい歌に出来るなんて。
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