クシーくん

マダムと泥棒のクシーくんのネタバレレビュー・内容・結末

マダムと泥棒(1955年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

有名な作品だが、まだ観ていなかった。ルパン三世2ndに「マダムと泥棒四重奏」という話があったが、元ネタこれだったのか。ルパンシリーズはそもそもが「黄金の七人」や「トプカピ」など、怪盗団ものの影響を強く受けているようだが、「悪の花園」の台詞が引用されたり、本作のように設定そのものを拝借するなど、今見返したら色々分かりそうな気がする。

俗にイーリング・コメディと呼ばれる、1950年代にイーリングスタジオで撮影されたコメディ作品の中でも、特に若き日のアルフレッド・ヒッチコックを指導したマイケル・バルコンプロデュース時代のスタジオ作品に高評価のものが多く、その代表作が本作、ということらしい。

メインの登場人物がむくつけき強面の泥棒達とオールド・レディしかいないという、実に華のない画面なのに全く飽きない。ケティ・ジョンソン演じるミセス・ウィルバーフォースの厄介なおばあちゃん感がたまらない。ステレオタイプ過ぎるお人好しの老婦人だけど、芯の部分は強く、教授の巧みな誘導や脅しにも絶対に乗らず、あくまで警察に行く事を強く主張する。彼女の一途な頑固さと正義感がなければ一瞬にして破綻してしまうこの物語を繋ぎ止めるだけの説得力を備えつつも、やり過ぎず、くど過ぎずに演じている。お婆ちゃん友達が怒涛のように訪れて、逃げるに逃げられなくなってしまうシーンは正に緊張と緩和の教科書のようなシーンで笑ってしまった。

仲間割れの挙げ句に次々と列車に乗っていってしまうブラックな展開も、あっさりとした描写の為に陰惨な印象はまるでない。列車から立ち昇る煙と共に鈍い音、また一人減っていく演出はお見事。舞台装置の多用や大きな転換がない所から、演劇的要素もみられたが、本作はあくまで映画用に書き下ろされた脚本でというから少し意外。

アレック・ギネスが出演する作品は何本か観てきたが、重厚感溢れる王侯貴族や紳士的な軍人の役ばかりだったので、胡散臭さ100%で、髪もボサボサ、常に薄ら笑いを浮かべて歯を剥くサー・アレックの姿は斬新過ぎた。そしてどんな役をやらせても天才的に上手い。
セシル・パーカー演じる少佐の優柔不断なキャラクターも好きだったな。ピーター・セラーズは主要なロールを演じた初の長編映画だったという事でまだ初々しいが、正直パッとしなかった。
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