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セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身のRのレビュー・感想・評価

4.5
2015/05/14以来ひっさしぶりに2回目見てみました! 笑うセールスマンみたいな話! これはすごい! オープニングからすごい! 目、口、耳などのクローズアップを歪めに歪めた不気味すぎる映像が次々に映し出され、恐ろしい音楽がけたたましく鳴り響く。この時点でただならぬ作品であることが見てとれる。アーサーハミルトンという何の変哲もない中年のおっさんが、列車に乗ろうと、大きな駅の構内を急いでいる。後ろから彼をつけてくる男がいる。彼はアーサーに住所の書いた紙切れを渡す。ただそれだけのシーンを具合が悪くなるような圧迫感の目まぐるしいカメラワークで禍々しく演出してあり、最初からフル・オンで恐るべき不穏さを無遠慮に押し付けてくる。このオープニングの異様さを目にしただけで、すでに本作を見たことに深い満足感が得られるだろう。続いて、アーサーの日常が描かれていく。電車で新聞のクロスワードパズルを解き、最寄りの駅にはいつものように奥さんが迎えにやって来ている。娘は結婚して家を出ており、時折手紙で生活の様子を伝えてくる。一見穏やかな日常のなか、死んだはずの昔日の友人から電話がかかってくる。そして駅で手渡されたメモの場所に行くことを強く勧められる。ただならぬ電話で動揺するアーサーを慰め、愛の行為に移行させようとする妻の口づけに、かたく口を閉ざす無表情のアーサー。夫の拒絶を仕方なく受け入れた妻は、少し離れた自分のベッドに戻っていく。ふたりは物を言わぬまま、眠ることもせず、ただ天井を見つめている。ふたりの間には、習慣があるだけで、愛情はついえてしまっていた。アーサーは銀行に出勤し、投資の融資額の増幅を断る手紙を秘書に書きとらせているが、心ここにあらず、それがいったい自分の人生に何の関係があるのか。何ひとつ関係ないのではないか。そんなアーサーの心象風景を冷たく切り取っていく映像のシャープさ。そういった日常から、恐ろしい闇の世界へと転落する契機が描かれる前半は、超現実的なすさまじい映像の連続! 顔のクロースアップや、超広角レンズのフォーカスのぶれた悪夢のようなシュールなヴィジョンの中、アーサーが無為な生活を棄て、新しいイケメンボティとアイデンティティを得るに至るシーンは、カフカエスクな不条理のイメージが連続、奇しくも同年の勅使河原宏の他人の顔に酷似した整形シーンのあと、涙を流すアーサーの姿には鳥肌を禁じ得ない。そしてそこから、まるでまったく違う映画が始まったかと錯覚するほど雰囲気がガラリと変わり、トニーウィルソンとして新しい生活を始める様子が描かれていく。一体トニーウィルソンは、今まで享受することのできなかった自由を手に入れ、人生をやり直すことができるのか……という何とも奇妙な物語が展開していく。中盤は前半とは打って変わって落ち着いた映像に変わるんだけど、それでも常に荒涼としたイメージがつきまとい、このあたりにいたると、勅使河原から突然アントニオーニみたいな雰囲気に変わる。そして、とうとうタガの外れたピークでは、生と性のイメージが目まぐるしく乱行的に混じり合い、ドキッと肝の冷える真実が明らかになったあと、終盤では、予測不能なアッと驚く衝撃の展開に! しかし、あとで考えるとそりゃそーだ!と深くうなずける納得のエンディング。見終わったあと、いろんなシーンを思い返してみると、いかに作品全体に、人生に対する皮肉なメタファーが満ち満ちていることか! すごい! 数々のセリフひとつひとつにダークな深みがあるし、一般的人生の捉え方を崩壊させる危うさもあり、一筋縄ではいかない、様々に挑戦的な要素があふれている! これ、アーサーハミルトンみたいな普通のおっさんとか、そのような夫を持った妻が見たら、結構つらい気持ちになるんじゃないかなと思った。一般の方は傷つくこと覚悟でご覧ください。アーサーハミルトンを演じるジョンランドルフ、トニーウィルソンを演じるロックハドソン共に、痛々しくて素晴らしい。特に、ロックハドソンは、一世一代の熱演を見せていますよ! いやー、すごい! 異様な迫力の戦慄の傑作! そういえば、最後に。ひとつ気になってたのが、オープニングの駅でのカメラワーク、あれってレクイエムフォードリームでめちゃくちゃ印象的に使われてたショットと同じ技法ですよね? あれが使われてるの見るのレクイエムフォードリーム以外で初めてかも⁇ すごく好きな感じのショットですわ。
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