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ヘンリーのRのレビュー・感想・評価

ヘンリー(1986年製作の映画)
4.2
またまたシリアルキラーものを見てしまいました。冒頭、いきなり引き裂かれて死んだ裸の女体が画面いっぱいのアップで映し出され、少しずつズームアウトしていきます。彼は移動する先々で多くの人々を殺害してきました。それぞれの刺激的なシーンが見れない代わりに、ひとつひとつの殺害の結果が、つまり死体が見られます。そのバックグラウンドでは、その殺害が起こったときのものであろうおそろしい記憶の音声が、遠くから聞こえる残響のように耳を刺激する。素晴らしいオープニング👏 ヘンリーは、時折即時で入ってくる害虫駆除のバイトをしながら、刑務所で知り合ったオーティスという男と一緒に暮らしている。ヘンリーは、がたいが良く、寡黙で、見方によってはなかなかハンサムな男。ブロークバックマウンテンのヒースレジャーを彷彿させる。一方、オーティスは鼻の下にもっさり髭を生やし、髪の薄くなった粗野で下品な中年のおっさん。ムショで知り合ったかて、こんな人と一緒に暮らすのは誰しもごめんだが、ヘンリーは殺人に対する謎な執着心以外のことに関しては、まったく心が動かされぬため、オーティスともうまくやっている様子。そんなある日、オーティスの妹ベッキーが、DV夫から逃れ、子どもは母親に預けて、仕事が見つかるまで居候させてくれと彼らのところにやって来る。事前にその事を知らされてはいたが、まさかオーティスの妹がこんなに可憐な女と思っていなかったヘンリーは、あっけにとられて、全然似てないな、とコメント🤣 オーティスは妹に、お前クラブで裸踊りを再開するつもりなのかい、うっへっへ、もうそんなことはしないわ、今度は普通の仕事に就くの、ということでのちに美容院で客の洗髪をする係になりました。ヘンリーとベッキーはお互いのことを少々意識しているようで、ヘンリーがいないときに、兄にヘンリーってどんな人?と探りを入れたり、ヘンリーとベッキーが二人きりになった夜には、お互い腹を割って、幼少期に受けた悲惨な性的虐待の経験を語り合います。突然オーティスが帰宅したときに、重ねていた手をささっと離すベッキーのしぐさがとても印象的。あぁ、もうこれは完全に惚れてもーてる。シリアルキラーに惚れてもーてる。DV夫と一緒になったときも、こういう流れだったのかな、と思わずにはいられない。相手が心の弱さを見せてくれた、他のだれにも見せない弱さを私だけに見せてくれた! といった流れで、男に惚れる女が時々いますが、やめときなさい。往々にしてそういう男は、貧弱でどうしようもないので、結婚して子どもでもできようものなら、最初から二人の子を持ったような感じだ、としばしば揶揄される状態に陥ってしまう可能性が高い。最初から弱い男と知っていたのに、後になって、マジ困る!と愚痴ったってどうしようもない。あなたがその道を選んだのです。あなたの選び方が間違っていた。そうなるのが嫌であれば、最初から強い男と一緒になるのことです。そして、ここ最近いくつかシリアルキラーものを見て思ったのは、やっぱこういうことをしてしまう男って、幼少期にひどい心の傷を負っていることが多いんやな、ということ。こないだたまたまあるニュース番組を見ていたら、死刑囚になった罪人とやりとりをしている神父がコメントしてて、死刑囚のほとんどの人は、幼少期に想像を絶する心の傷を負っている、ということを言っていた。本当にかわいそうだと。もちろん、殺された方からしたらたまったもんじゃないが、そんなひどい環境に無理やりうまれなければならなかった子どもも同じく不憫でしかない。ヘンリーもそういう子だったのだ。そして、後半では、ヘンリーとベッキーのプチロマンスがいったいどうなっていくのか、という関心事が加わります。その後、ひょんなことから、ヘンリーはオーティスとふたりでシリアルキリングをやり始める。一体なぜそんな衝動がヘンリーの中に生じたのか。謎です。この人の中で何が生じてるのか。謎であることが余計に怖い。とはいえ、オーティスがイラついて壊したテレビの替えをふたりで買いに行くシーンは笑ってしまう。シリアルキラーものってこういうどす黒いコメディー要素がとつぜん入ってくるのがステキ。でっぷり太って禿げあがったおじさんが、おもしろい殺され方をします。それ以降は、そのお店で奪ったビデオカメラで自分たちを撮影しながら、残虐な殺戮が繰り返されていく。個人的に好きだったのは、家族が殺されるシーン。お父さんを縛り上げて床に置き、金切り声をあげるお母さんを椅子の上にしばって、オーティスが服を脱がせてセクハラしてるところに、子どもが帰ってきて、お母さんの見ている前で子どもを殺し、その後、夫婦を順番に殺していくシーンは、大変よかった。このあたりにエンターテインメント性の高さが垣間見える。そんなこんなが進んでいく中、オーティスのど変態な行動を引き金にして、とうとう運命的な瞬間が来てしまう!!! ここからの怒濤の展開から、ラストシーンの、一瞬何が起こってるのか分からない、静かな恐怖に至る流れも素晴らしかった。シリアルキラーの心の中に立ち入っていくことなく、ただ淡々と、事実だけを冷たく切り貼りしたような演出やドライで殺伐とした雰囲気がとてもよかったし、映像が全体的にスタイリッシュでかっこよく、アート的視点でも楽しめる映画になっていると思いました。ただなんとなくもう一度観たいという気にはなれませんね。なぜだろう。だれにも感情移入できないからかな。
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