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ザ・キラーのRのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
4.0
かなり面白かったんすけど、フィンチャー映画の中ではちょっと落ちるかな、という印象。フィンチャー映画と知らずに見たらもっと楽しめたかも。フィンチャーでタイトルが『ザ・キラー』なので期待値が上がりすぎてましたわ。いつものフィンチャーと異なり、派手さのまったくない、小さくてスリムでタイトな映画だと知ったうえで見た方がいいかと思われます。まず、オープニングクレジット、これがめちゃくちゃカッコイイ。クール。スタイリッシュでサイコな映画が始まるのを静かにさらっと予感させる。幕が開けると、主人公の殺し屋が、パリの建物の一室で、隣のホテルにこの度の仕事のターゲットが来るのを待っている。だが、ターゲットが全然現れない。何日も現れない。一向に現れない。気は抜けないが、暇だ。その退屈な時間を、主人公のモノローグが淡々と埋めつくす。ぶつぶつぶつぶつ独り言、脳内で独り言。何度も繰り返し確認する自分に課したルール。予測しろ、即興するな、人を信用するな、感情移入はするな、対価に見合う仕事のみやれ…などなど。それと同時に、ニヒリスティックな哲学的内容も頭の中を行き交っている。地球上では毎秒3人の人類が誕生し、一人が死んでいく。毎秒死ぬ一人を自分が殺めたからと言ってそれがこの宇宙で何の意味があろうか。ひたすらぶつぶつ。そうしながら、向かいのホテルの部屋を眺めたり、エントランスを眺めたり、周りの建物のなかにいる人々を眺めたりする様は、ヒッチコックの名作『裏窓』を彷彿させる。そして、彼が仕事に集中するために聞いている音楽が、The Smithの名曲の数々。全編The Smithに彩られています。音楽の演出も面白く、キラーの主観になっているときは豊かな音色が、客観的なショットの時は、イヤホンの外から音漏れしているシャカシャカした金属的な音で聞こえてくる。ところが、待てども待てども、ターゲットが現れない。ついには、仲介人から「今日ターゲットが現れなければ計画は中止だ」と告げられる。その夜、標的はやってくる。ホテルに入ってくる。コールガールらしき女を連れて。遠く離れた人物をスナイプするためには、自分の心臓がドキドキしていてはならない、心臓の鼓動が手元を狂わせかねない。腕に巻いたスマートウォッチで脈拍を測り、心拍が落ち着いたところで、発射! あっ!!! めちゃくちゃ几帳面な計画にもかかわらず、おいおい、めっちゃ失敗しとるやんけ! とういことで、そそくさとその場を退散。パリの夜の街をパトカーのサイレンを回避しながら進んでいく。このあたりはフィンチャーのドラゴンタトゥーを思い出しましたね。全体的な作品の雰囲気はドラゴンタトゥーに近いかも。で、一旦隠れ家のあるドミニカ共和国に帰るのだが、その隠れ家がえらいゴージャス。最近の殺し屋はこんなに目立つ隠れ家でも大丈夫なんか、と思っていると、何と、彼の伴侶が何者かによってボコボコにされているではないか! あれ? 殺し屋って伴侶とか作らないのが普通なんちゃうの? どこにもコミットする対象を作らないために。うーん。この殺し屋はん……冒頭のストイックさとは裏腹に……ゆるいな……で、伴侶をボコボコにしたやつら、つまり、先の殺し計画の失敗が許せない首謀者・その手下たちに対してリベンジを行っていく、という流れ。そのひとりひとりをワンチャプターごとに追っていくのですが、彼が序盤脳内で唱えていたどのモットーにも結構大幅に従いきらないところが面白いですね。行く先々でパスポートを変え、名前を変え、なので、何が本名かよくわからないのだが、演じているのはマイケルファスベンダー。相変わらず映画映えするスタイルなのだが、顔面がだいぶお爺さんの顔つきになってきたためか、神経質だけど少々緩い感じがとても合っている。そして、個人的に本作の最大の見せ場になっていたのが、突然現れる激しいアクションシーン! 僕、そもそもそんなにアクションシーンが好きなわけではないのだが、本作のアクションシーンの激しさは、コレオグラフィー的じゃなく、リアルに命がけで戦ってるスリル感が大胆に演出されててすごかった! アクションシーンだけ後でもう一回見てしまったくらい魅了された! ほんでまぁいろいろあって、最後の最後で、えっ! そのアンチクライマックス⁈ ってなるのだが、ある意味なるほどーと納得できるところもあり、さらに顔面ピクピクっ! 意味深! からのザ・スミスでクロージング。いやー、面白かった! いや? 面白かったのか⁈ フィンチャー映画に求めていたものとはかなり違ったけど、それなりに楽しめ、全体的な雰囲気が僕の大好きなソダーバーグっぽいような気もちょっとした。ただ、フィンチャーの映画って、1回目よりも2回目以降の方がぜんぜん深く突き刺さることが多いですよね。ほぼ全作そうかも。一番最初から完全にハマりきったのってゾディアックだけかなー。2回目見てないのも2,3作あるけど。なので、本作も、ひょっとしたらもう一回見たらもっと好きになるかもしれないな、とも思います。また数年後にでも見てみようかな。ただ、一つだけ、確実に一回目から楽しめるのは、映像と音楽がめちゃめちゃスタイリッシュであるというこの一点! それだけのために見てもいいくらい! 今回はこんな感じです。ルークウォーム。
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