茶一郎

少年は残酷な弓を射るの茶一郎のレビュー・感想・評価

少年は残酷な弓を射る(2011年製作の映画)
4.1
【短】16歳目前で惨殺事件を起こした青年ケヴィン、その加害者家族、母エヴァの苦悩を描く『少年は残酷な弓を射る』。
 カンヌを中心に高い評価を受けていた女性監督リン・ラムジーが、初めて原作付きに挑んだ作品。結果として、リン・ラムジー全作品に共通する異常なまでの「赤」のイメージが主人公エヴァを追い詰める、悪魔の子どもを産んでしまった母親が地獄を抜け出すまでの物語として母親の映画であると同時に、どこかサイコスリラーのような様相を見せるスリリングな作品に仕上がっていました。

 リン・ラムジー監督の長編監督デビュー作『ボクと空と麦畑』、次作『モーヴァン』と、冒頭である罪を背負った主人公が罪悪感と抑圧された世界に苦しみながら一時の自由を勝ち獲るという物語を描いてきたリン・ラムジー監督。本作『少年は残酷な弓を射る』ではその「罪を背負った主人公(子供)」が悪魔の子ケヴィンに集約され、今までのリン・ラムジー作品では主人公であった人物を見つめる人物・母が本作における主人公であるという、逆転構造のようなものを感じていました。

 悪魔の子ケヴィンが幾ら何でも意地悪すぎる性格のため、普遍的な「子育ての大変さ」を描いた作品というより、『エクソシスト』、『ローズマリーの赤ちゃん』に通ずるホラー的要素も強いです。特にケヴィンの幼少期における、母親の「何で私だけ?」サスペンス・スリラー要素は『エスター』に近いものです。
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