Ren

わたしを離さないでのRenのレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
2.5
思考実験的な導入はとても面白かったけど、見事に尻すぼみになってしまった印象。カズオ・イシグロの原作は未読なので映画化にあたりどの程度の取捨選択が行われているのかは推し量れないが、そこまで心に残ることなく終わってしまった。

隔離施設にいる自分たちは臓器ドナーとして育てられていたことを知る前半は『約束のネバーランド』のよう(読んだことないけど多分合ってる)。
ここから倫理的な問いに行くのかと思いきやその掘り下げも特に無く、この設定が人生の終了の象徴に終始しているのが物足りない。

システムへの反逆ではなく、受容した上でどう生きるかを問うた作り自体は面白かった。ただ逆に、このミニマルさで行くならもっと上映時間が長くてもよかった気がする。映画は短くまとめられたらそれは偉いけど、三角関係の恋模様の心情描写などはもっとじっくり描いたほうが心に迫るものがあるのでは。

三幕構成の後半へ行くにつれ凡百の恋愛もの、余命もののようになっていきどんどん興味が無くなっていってしまった。静謐なディストピアSFは歴史上たくさんあるけど、それはそこに見合うだけの内容があるからこそ歴史に残るのであって、今作は「徹底して彩度を落とした映像」「ピアノの劇伴」などで重厚さや悲壮感を演出しようとしているものの「っぽい」で止まってしまっていた気がしてならない。とても悪い言い方をしてしまうと、見掛け倒し。世界観に浸ってください〜考えてください〜というポーズは取っているけど....というのは穿った見方でしょうか。

ドナーは短い生涯を誰かを救うことに捧げて人生からドロップアウトするけど、レシピエントもいつかは亡くなるだろう....という結論。人生論として人は誰しもが死ぬのはごもっともだし誰もが考えなくてはいけない命題だけど、それは一歩間違えたら生きようとした人の選択の否定になってしまう。スッキリとエンドロールを見せてはくれない。
人生の意味を、その長さではなく出会いや精神的な充足感で測るという「命が尽きる者の自己肯定/自己防衛の叫び」なのだとしたら、この物語は ドナー/レシピエント のモチーフを生かしきれていたのか?単に余命ものではダメだったのか?という疑問も。

多分自分はこの映画のことをそこまで理解できていないし、もっと深く潜ろうと思えるフックも無いのが残念だった。
メインキャストのブレイク前夜の初々しさが見られたのは良かった(キーラ・ナイトレイはこの時点で売れっ子だったと思うけど)。
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