ラストのセリフの
ためにある映画
バイオレンスから離れ
年齢を経た監督が
到達したリアリズム
古くも新しい物語…
「Kids Return キッズ・リターン」
久々に北野作品を。事故を起こし、三途の川の手前から帰ってきたたけしが取り組んだのは青春映画。ある種の達観とそしてリアリズムに徹した作品でありながら、ラストの名セリフにより希望を感じさせるコントラストと心地よい不思議な作品に仕上がっています。
男子校、マサルとシンジのコンビは授業にも出ず、くだらない遊びに興じる毎日。ある日カツアゲの仕返しにボクサーに殴られたマサルはボクシングジムに入会、兄貴分のマサルに誘われ渋々シンジも入会する。だがマサルはイザコザを起こした挙げ句、才能を発揮し始めたシンジにKOされ、消えてしまう。シンジがデビューした後、マサルはヤクザ世界で頭角を表し始める…。
リアリストであるたけしの視線は、彼のカラーであるキタノブルーの様に冷たく、突き放したようだ。
我慢と努力を怠り、道を外したモノには成功などおぼつかない。自分が決めた道を進まないならば、また然り。正にこの通りの普通にありそうな若き挫折を淡々と描いていく。それは自らの若い頃、道を踏み外した芸人や落ちて行った仲間、運の無かった奴らを山ほど見てきたが故だろう。
だが…そのラストの一言に全てが集約される。希望やエールにも思えるそのセリフのため、2時間のこの作品は画かれているが如く。
敢えてそのセリフは書かないし、北野武が事故に合っていなかったとしたら、こんなセリフは臭くて恥ずかしくて書かない気がする。事故後、自らの人生を達観し、俯瞰で見た事が北野武をより純粋にしたかのようだ。
敢えて瑞々しさを出すためか、起用された若手二人。金子賢と新人安藤政信。二人ともすばらしかったですが、やはり安藤政信が特筆されます。自然なセリフ回しで控え目で流されていくシンジを見事に演じていました。また彼ら以外にも大人社会に翻弄される同窓生たちもコメディリリーフとして上手く機能。作品の厚みを増してました。
また久石譲さんの軽やかな音楽が静かな舞台をさり気なく盛り上げ、エンドロール前から被る音楽は素晴らしいラストでした。
たけし流青春映画、軽やかなリアリズムとその贅沢な作りによるたけし流のエール、堪能させてもらいました(^^)