ろ

恋のためらい/フランキーとジョニーのろのレビュー・感想・評価

5.0

「俺は怖いんだ。君がまた独りぼっちの心を閉ざした場所に逃げ込んでしまうことが」

バスに揺られマスカラを塗る。
故郷からニューヨークに戻ったフランキーは、今日もレストラン「アポロ」で働く。
仕事が終わればピザを買い、ビデオデッキで映画を流してまた代わり映えのない朝を迎える。
そんなある日、新入りのコックが店に加わる。
「君の名前はフランキー?俺はジョニー。俺たち”フランキー&ジョニー”だな。2人は恋人だったんだぜ」

自分を殺したいと思うほど孤独だったジョニー。
独りになることも独りになれないことも怖くてたまらないフランキー。
陽気にスクランブルエッグを焼き、人前では気丈に振る舞えても、瓶入りピーナッツにむせて咳をしても独り。ベッドに横になりヘッドライトを点けたり消したりしているうちに夜は更けていく。

ジョニーのアプローチを煙たがりながら、着ていくドレスに悩むフランキー。
姿見がないから便座の蓋に立って全身チェックする横顔が愛おしすぎるし、「俺も何を着ていくか迷ったんだ」と、散らかった彼女の服を片づけるジョニーのさりげなさにときめいてしまう。

「今の私ってもろいの」
「いいじゃないか」
「誰かに守ってもらえたらって思ってしまう」
「きっとみんな同じだよ」

ティッシュの箱はからっぽで、仕方がないからトイレットペーパーで涙を拭く。
「俺には不幸を防ぐことはできない。でもこれからは寂しいときや怖いとき、俺が隣にいる」
こどもたちを抱きながら眠る幸せな夜。
日替わりの男に切なさがこみあげる朝。
向かいのアパートで暴力を振るわれていた女性はついに夜逃げし、フランキーはきしむ窓を押し上げ日の光に目を細める。

過去の傷が癒えるわけではないし、誰といてもこの不安が消えるわけでない。
それでもラジオから流れるドビュッシーはささくれだった心をそっとなでていく。

夜明けの市場でトラックから花々が溢れ出すとか、自分の書いた脚本がハリウッドで映画化されることになるとか、そんなドラマばかりが起こるわけじゃない私たちの日常。
ボウリングやパーティーでは晴れない孤独に寄り添うこの映画は、憂鬱に耐える勇気をくれる。

「もっと他にすることもあるだろうに。君から目が離せないんだ。その姿を記憶に留めておきたい。雄大なグランドキャニオンの景色のように」


( ..)φ

ヘビースモーカーのネッダがなぜかノーブラでパチーノと踊る場面が好きすぎたし、ずっと三角巾で腕吊ってるレストランのオーナーがハッサンサラーで笑った。

辞書を読みながら髭を剃るというパチーノのセリフはどれも素敵で、きっとこの先何度も元気をもらうだろう。
何気ない日常が愛おしく思える「フランキーとジョニー」。
本当に観てよかった。
ろ