もものけ

カラビニエのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

カラビニエ(1963年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

家族四人で暮らす掘っ立て小屋へ、"カラビニエ"なる二人が戦争への参加を募りにくる。
何でも手に入るとの期待に胸を膨らませ、若い二人の兄弟は戦争へと向かうのだが…。






感想。
小難しいヌーヴェルヴァーグの旗手とされる作品が特徴的で、苦手意識からからほとんど鑑賞しておりませんが、反戦映画ということで気になって鑑賞した作品。

一言で表すと"無知な大衆"と"貧困"がもたらす悲劇を、商業主義映画に浸かった"無知な大衆"である人々へ"目覚めよ"という上から目線の啓蒙作品。

大根役者の非現実的演劇の合間に、実際の戦争フィルムをリアリズムに配して、虚構と現実へのイメージに対して観客を観察者とさせて目の前の出来事へ理解を委ねる"ブレヒト劇"を用いた反戦映画になっております。
寸劇のような構成も脚本もないかのような、理解不能な演劇の背景に、ヌーベルバーグとして撮影されたリアルな音を合わせているのも"叙事的演劇"の特徴。
撮影手法を知らないで鑑賞していると、ジャンプカットや音響のブツブツと途切れる編集に、イタリア映画(フランス)は相変わらずいい加減な製作方法だねと思いがちですが、これが映画表現法を用いた計算として演出されていると感じると、理解できてしまう悲しさ。
完璧に作り上げられて計算された商業主義映画に慣れてしまうと、学問としての演劇の表現法がヘンテコに見えてしまい、ジャン=リュック・ゴダール監督から言わせると"無知な大衆"と揶揄されて作品でメタファーとしてシニカルに侮蔑されます(笑)
私は、商業主義映画が大好きなので、そんな侮蔑には屈せずヌーベルバーグも一つの表現法でしかない、監督としての個性としか捉えておりませんが…。
それほどヌーベルバーグの作品を鑑賞していないからかもしれませんけど(笑)

作品としては、"貧困"で"無知な大衆"が暇を持て余す中で、"カラビニエ"から非常招集をかけられ、戦場では"王様"の軍隊(正規軍)特権で、あらゆることが"正義"とされるという、民衆が戦争へ巻き込まれる描写がとても秀逸な表現で描いた寓話というイメージでした。

言葉遊びのように繰り返し表現される単語に、ジョークとドギツさを交えることによって、戦争犯罪へのモラルを軽減させる効果的な演出。
これは映像でも同じ表現法をとっており、観客も喜劇にしか見えなくなってゆく魔法がかけられているのは面白い。

あえて直接的な表現の血や性的描写を用いずに、音とオフスクリーンで想像させて伝えており、典型的な"ブレヒト劇"の手法で描いているので、よく考えるとドギツいはずなのに、淡々と物語へ転換されてゆく様は、まるで戦争で鈍化してゆく兵士たちのモラルを体感させられるかのようです。

戦争から戻り戦利品をトランク一杯に詰め込んだ若者二人は、家族へお土産として持ち帰りますが、それは全て写真(虚構)です。
約束されたはずの戦利品にありつけず、飯の種にもならない勲章を授与されて馬鹿された"無知な大衆"は、負け戦になった途端に"戦犯"として今度は逆に狩られる立場へと変わり、口封じで"カラビニエ"に殺されます。
戦争で好き勝手にやりたい放題したので、当然との見方もありますが、"無知"を利用されて恐ろしい行為を行わされた"犠牲者"ともいえるような唐突の悲劇的ラストは、喜劇にもとれてしまって観客は"虚構"と"現実"に巻き込まれたまま映画館を後にするのでした。
まさに戦争を体現させるかのような実験的作品であるように感じました。

表現に理解できないシーンがいっぱいありましたが、作品の本質は伝わったように感じた初ジャン=リュック・ゴダール監督へ、3点を付けさせていただきました。
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