秋日和

三月生れの秋日和のレビュー・感想・評価

三月生れ(1958年製作の映画)
4.5
「一生物よ」という言葉と共に渡されたネグリジェはいつしかパジャマへと変わり、ダブルベッドは二つのシングルベッドとして間を引き裂かれる。あの頃と今は違う。けれど、25年分の喧嘩をたった数週間で果たしてしまう程に口論が絶えないふたりのやり取りを観るのはこんなにも面白い。
出逢いは路面電車の中。彼女と彼以外に殆ど乗客のいない空間で、揺れる車体が二人をくっ付ける。「ガラガラの車内」という条件によって達成される二人の出逢いと再会が個人的なベストシーンではあるけれど、後のシーンと掛け合わせることによって、序盤のこのシーンは更に愛しくなるのだからピエトランジェリは素晴らしい。
嘗ては幸せだった筈の二人が離ればなれに暮らすことを決めた後、二人でバスに乗るシーンが用意される。バスの中は混雑していて、人混みを掻き分けなければ中に進んで行くことはできない。それは丁度、昔ふたりで参加したミサのときみたいな光景と言えなくもなかった。混雑する車内の中、二人は身を寄せ合うことを余儀なくされる。久し振りにくっつかなければならない二人。これがもしも「ガラガラの車内」であったならば、こうはいかなかったに違いない。
あの頃と今は違う。状況の変化と二人の変化。この二つを丁寧に掬いとっているから『三月生れ』は面白い。画面の奥行きまでたっぷり活かした演出も冴え渡っている。
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