風に立つライオン

招かれざる客の風に立つライオンのレビュー・感想・評価

招かれざる客(1967年製作の映画)
4.1
 1967年制作、スタンリー・クレイマー監督によるヒューマンドラマの名作である。

 物語はサンフランシスコの一等地に居を構えるドレイトン家のある日の昼下がりの出来事をコメディータッチで捉えたものである。
 とは言え異人種間の結婚がテーマとなっており人種差別問題も背景にあって重くなりがちな展開をヒューマンドラマに昇華させて秀逸である。
 密室劇に近いが物語の起承転結がはっきりしていて、テンポもよく、キャラのバリエーションもあってすぐに入り込める。

 人種差別や偏見と社を挙げて戦って来た大手新聞社の社主マット・ドレイトン(スペンサー・トレイシー)の愛娘で何の屈託もなく、明るく両親の教え通りに育ったジョーイ(キャサリン・ホートン:C.ヘップバーンの本当の姪)が、結婚相手として黒人青年ジョン・プレンティス(シドニー・ポワチエ)を家に連れて帰って来たことから大騒動となる。

 はじめは母親のクリスティーナ(キャサリン・ヘップパーン)も動揺していたが、次第に幸せを謳歌する娘の味方についていく。
 マットは仕事柄の情報収集力を生かして青年の氏素性を調べるが、事故で妻子を亡くした過去を持つものの、WHOに勤める名医であるなど非の打ち所のない人物と知る。
 しかし父親としては今後の二人を待ち受ける世間の目を気にし反対を表明する。

 この辺りからコメディータッチのものがシリアスな波長へと変わっていく。
 結局、ジョーイの主導で彼の両親まで自宅に来る羽目になり、ジョンの母からマットは情熱のかけらも無くなった燃えカスなどとヤジられる始末。
 暫く黙考したマットがはたと頷いて皆を集めての10分にも及ぶ伝説の名スピーチが始まる。
「君達二人の愛が私達の半分でもあれば大したものだ」と言ってクリスティーナの肩を抱くマット。
 スペンサー・トレイシーの遺作となったこともあり、琴線タッチの涙ものになること間違いない。

そして、ここだけ観てもスペンサー・トレーシーにアカデミー賞主演男優賞を贈ってあげたかったなと思う。