るるびっち

つばさのるるびっちのレビュー・感想・評価

つばさ(1927年製作の映画)
4.8
第一回アカデミー作品賞受賞作はだてじゃない。
『トップガン』『愛と青春の旅だち』『素晴らしきヒコーキ野郎』『突撃』『ロング・エンゲージメント』『ハクソー・リッジ』『ダンケルク』
後の名画のエッセンスが全て盛り込まれている奇跡の映画。
最高の航空映画であり、友情映画であり、恋愛映画であり、コスプレ映画で、軍隊訓練映画で、鋭い反戦映画で、しかもファンタジー映画ですらある。伝説の四不像(シフゾウ:鹿・牛・ラクダ・ロバを合わせたような謎の動物)みたいな全部盛り映画。

男同士の友情と田舎娘の片思い。
都会的な美人に想いを寄せる男二人が、パイロットとして戦場で助け合う。
この構造はアベル・ガンスの『戦争と平和』(1919年)と似ているし、ハワード・ホークスが好みそうなモチーフだ。
違うのは、都会美人の他にもう一人モテない田舎娘が居ること。
主人公のパイロットにまったく見向きもされない。切ない片思い。
クララ・ボウ演じる、彼女の涙がシャボン玉となって宙に浮かぶ。
酔っ払いの幻想なのだが、急にファンタジックになる。不思議とバランスは崩してない。サイレントで何故これだけ詰め込められる? いや、サイレントだからこそ可能なのか。画があって音がないから、写実と抽象の中間を描けるのではないか? 生々しさがないからファンタジーが描け、一方で写実描写もできる。

田舎娘が軍の輸送部隊に志願して、軍服を着て現れる。
この瞬間、1927年の映画が最新性を帯びる。
オタクが夢中の軍服女子を、90年前にクララ・ボウが体現。
『ガールズ&パンツァー』『幼女戦記』とか今頃古いんだよ、そんなの90年前に終わってんだ!!

戦争と青春を掛け合わせた映画のはしりでもある。
スクリーンで見ると、空中戦は今見ても中々迫力がある。
『ダンケルク』も宮崎駿もビックリだ。何しろアルバトロス(『ルパン三世・死の翼アルバトロス』)みたいな巨大爆撃機が登場する。
戦争と青春を掛け合わせるにしても、友情か恋愛どちらかに偏りがちだが、本作は両方過不足なく描いている。
辛口甘口、両方のダシを使える仕切り鍋みたいだ。

しかも、普通これだけ戦場の青春を描けたら戦意高揚映画として終わるが、クライマックスにきて急速反転。
運命的で皮肉で悲壮な衝撃が主人公を襲う。
受け止め切れない現実。言葉に出来ないこの世の理不尽。
それを見事に、たった一言の字幕。
「これが戦争さ」
サ、サ、サ、サイレント!! 
サイレント最強かよ!!!!
これがウィリアム・A・ウェルマン監督の凄さ。ホークスみたいに甘美な話にしない。
最後に厳しく突き放して、見事な反戦映画として着地する。
『トップガン』や『愛と青春の旅だち』にもできないことだ。反戦できてないでしょ?
逆に反戦映画にもできない。戦意高揚・ロマンスできてないでしょ?
ここでも甘口辛口両方鍋なんだ。ワガママ胃袋だな~。
戦争時の青春をあれだけ楽しく描いて、痛烈な反戦メッセージを差し込める。
エンタメと社会批判と両方のバランスを絶妙に取れる才人。
未だに戦争映画はこれを超えられない。甘口か辛口どちらかしかないから。
最強仕切り鍋映画、90年経っても賞味期限切れてません。ご賞味あれ!!
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