滝和也

天国と地獄の滝和也のレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.5
明けましておめでとう
ございます(^^)
遅ればせながら本年
一発目のレビューは
やはり大好きな作品から…。

黒澤明監督のクリミナル・サスペンスの代表作であり、邦画サスペンスの金字塔である…

「天国と地獄」

黒澤らしいヒューマニズム、サスペンスの練り込まれた技法、そして今作を名作たらしめるアイロニーが素晴らしい作品。野良犬で刑事ものの骨格を作った黒澤が更にそれを推し進め、一級のエンターテイメントに仕上げた傑作中の傑作です。

ある会社の重役の子供が攫われた!だがその子は運転手の子供だった…。それを知っても犯人の要求は変わらない。その金は彼を破産に追い込む金額であったが…

今作に関しては犯人との交渉時の密室劇、身代金受渡し時のサスペンス、犯人探しの過程を見せる泥臭くも緻密な捜査、そして犯人逮捕に至る仕掛けを見せる4部構成であり、全てがラストの帰結に向かう緻密かつ精巧なシナリオ、熱気すら伝わる完璧な演出、そしてそれに応える役者と正にパーフェクトなサスペンス映画でしょう。

まずは犯人との交渉時の舞台劇を思わせる密室劇。黒澤ならではのヒューマニズムに裏打ちされた展開。三船の追い詰められ決断する見事な演技、演出。またカメラワークで飽きさせない。

そして豪快な場面転換により、一気に映画が動き出すかのような、列車を貸し切り撮影された受渡しサスペンス。見事なトリック・リアリティが緊迫感を更に募らせる。

そして犯人の正体を探る泥臭い刑事たちの活躍を描く展開へ。やはりこのシークエンスは事実を足で積み上げていく丁寧な描写が素晴らしい。後一歩に迫る中、劇的に展開するあの煙突の煙の演出に黒澤の才気が爆発する(^^)

ここからは犯人逮捕の作戦が展開するわけだが、犯人の非道ぶりを更に際立たせる演出。その犯人像を描いていく。

そして何と言ってもあのラスト。犯人の動機、この時代にあの動機は革新的であり、サイコパスにもやや寄っている。ここ迄、誰が犯人で引っ張り、何故は隠されているが一気に吹き出すかのような演出。一枚の壁が分ける天国と地獄。だが犯罪には勝者など存在しない…。全てが敗者であり、全体を覆う天国と地獄。犯罪は全てが地獄…。緻密に犯罪被害者を描写し、その苦悩を描いてきた演出もここに帰結していく。事件は終わらないのだ…彼らの人生を変えてしまう故に。

三船、仲代、山崎と日本の3大名優が織りなす演技。苦悩しながらも、覚悟を決める三船、飄々とした持ち味を活かしながらも、熱き刑事魂を見せる仲代、そして怪物を見事演じ、ラストの邦画屈指の場面を作り上げた山崎。見事なアンサンブルを見せてくれますね。他出演者も黒澤組の常連、オールスターであり、見事なサスペンスを盛り上げてくれます。

黒澤明監督の至高のサスペンス・エンターテイメントです。こちらは是非おすすめ!本年も皆さんよろしくお願いします(^^)
滝和也

滝和也