優しいアロエ

ストレンジャー・ザン・パラダイスの優しいアロエのレビュー・感想・評価

4.3
〈一定の歩調を保ちつづける居場所なき者たちの放浪記〉

 処女作『パーマネント・バケーション』同様、生きがいを見つけられていない若者たちの漂流をゆるりと観測する。ジャームッシュは決してそのペースを焦らすことがなく、暗転をこまめに挟むことで歩調をつかみ、日常をスケッチするような仕上がりを目指した。

 その軽やかさと異分子的性質は『勝手にしやがれ』『はなればなれに』など、ゴダールに近いところがあるかもしれない。しかし本作には拳銃が出てくることもなければ、断片的なモチーフの挿入を挟むこともない。余計な遊びごころが入り込む隙をつくらず、その哀愁を極限までスリムに伝えている。

 ハンガリー出身の主人公がアメリカに溶け込もうとするあたりは、ヨーロッパにルーツを持つジャームッシュ本人、あるいはその両親を意識したものかと推測する。あるいはやはり『勝手にしやがれ』だろう。こちらもアメリカに憧れるアウトサイダーの物語であった。
——————

 撮影で云えば、キャラクターの動かし方が黒澤明のようで、地味だが見飽きない。ジャームッシュ作品の魅力として日本映画のような侘しさがよく挙がるようだが納得。一本一本にカロリーを消費しなくていいのも好ましい。
優しいアロエ

優しいアロエ