zhenli13

ル・アーヴルの靴みがきのzhenli13のレビュー・感想・評価

ル・アーヴルの靴みがき(2011年製作の映画)
4.4
2023年最後は『ル・アーヴルの靴みがき』で締めた。大好きな作品だ。人の情けが悪法を凌駕するという、映画の中だけでも理想が具現化されたらいいじゃない。映画の中だけでも奇跡が起きたら嬉しいじゃない。そういう映画。初期作品のニヒリズムの真逆を行くかのような優しさ、それも勇気のある優しさが溢れてる。
小津監督のカラー作品を最大限にオマージュしたかのような鮮やかなターコイズブルーに差し色の赤、それを劇的に彩る照明がいつもに増してバキバキに効いてる。酒場で説得するアンドレ・ウィレムのマルセルに強いスポットが当たり、会話の主体が「リトル・ボブ」とその妻に移るとスッと照明も主客を移動してマルセルが「退場」する。観ていて惚れぼれする。あのリトル・ボブのコンサートを突然企画するくだりは唐突で笑う。

フランス語の台詞を話す姿が珍しい、妻役のカティ・オウティネンは夫と仲睦まじいさまが微笑ましく、ウェーブをかけた金髪でベッドに臥す姿はボッティチェリの天使みたい。彼女の役名がアルレッティで夫のアンドレ・ウィレムがマルセル(この役名は『ラヴィ・ド・ボエーム』から使われてるらしい。未見なので観ねば。)、そしてアルレッティの主治医がベッケル。明らかにフランス詩的リアリズム映画への目くばせが感じられる。
ジャン=ピエール・レオーが密告をするご近所の老人という悪役をやっている。ピエール・エテの名も見られ、おそらくバーの常連客の一人ではないかと。
zhenli13

zhenli13