うさふわ

ル・アーヴルの靴みがきのうさふわのレビュー・感想・評価

ル・アーヴルの靴みがき(2011年製作の映画)
4.5
この作品に出てくる人達はあまり笑わない。

アキ・カウリスマキは無闇に顔色を変えない。

透明の硝子を通して、無限に広がる青の深淵を濃淡で語り、言葉で包み隠す。
慎ましくも爽やかな希望に満ちた作品だ。
アキ・カウリスマキのこなれ感が大事に履き慣らした革靴のようにフィットし、丁寧に磨かれてきた光が作品の真価を物語る。

アフリカからコンテナに紛れて密航した少年は、フランスのル・アーヴルの港へ流れ着き、警備が待ち構える中、少年は鉄砲玉のように勢いよく脱走した。
人の不幸も、店へのツケも、淡々と毎日をやり過ごす、靴磨きの老夫。海の畔で少年と目が合い、老夫は行き場をなくした少年を匿う事にする。

7年ぶりに2回目の観賞となる本作。
何が好きかうまく言えないけど好き。
ル・アーヴルの人々が少年を匿おうと動き出し、人に本来備わってる温かい側面が見出されていく過程がすごく好き。
自身の錆び付いた心を磨かれていくような感触だ。

老夫の妻の、夫を気遣うさり気ない愛、病床の上でも髪飾りを付けて口紅を引く姿は永遠に純情な乙女のようで、儚い輝きが愛おしい。
一人の男性への叶わぬ気持ちを内に秘めて、幸せを願い続ける女性も赴きがあって素敵。
妻との和解後、赤い革ジャンを羽織って歌う老齢のロック歌手も最高。
職務を超えて普段冷酷な人間の持つ、人としての良心に救われる場面は最高に痺れた。
いいなーいいなー人間っていいなー。

贈り物で心を届け、瞳を通して語り、色で予感させる。そこに必要以上の装飾は不要。

ペティナイフで丁寧に切り込み、
内面のあらわになったヤサイを、
赤いトマトソースでじっくりと煮込んで、
円を描いてみんなでホッとする瞬間を分け合う。
絶品の家庭料理を味わった後のような、特別な満足感。

花に込められた希望を、青く澄み切った空に想う。
うさふわ

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