ひでやん

鏡の中の女のひでやんのレビュー・感想・評価

鏡の中の女(1975年製作の映画)
3.8
壊して、晒して、対話して、乗り越えるセルフ・カウンセリング。

夫が出張中に妻が浮気する話だと思っていたが、「私をベッドに運ぶまでの手順を教えて」ときた。参ったぜ。あわよくばっていう展開を心の片隅で期待したとして、それを先に全部言われちゃったら逆に何もできなくなる。嫌な女だなと思ったが、口にする言葉は自己防衛だったのかもしれない。

今いる家を引き払い、引っ越し先の新居が建つまでの間、祖父母の家に身を寄せる精神科医のエニー。快復の見込みがない患者に無力を感じ、病気の祖父や老女の幻覚に感じる死の恐怖や孤独。やがて精神のバランスを崩していくのだが、その引き金となる強姦未遂シーンが印象的。壁によって真ん中で分割され、強姦される隣の部屋では精神病患者が横たわる。こちら側の人間が壁の向こう側の人間になると思わせるシーンだった。

笑いながら泣き、泣きながら笑うエニー。笑いの発作と慟哭が凄まじい。リヴ・ウルマンの迫真の演技は圧巻。両親や祖父母、患者達を夢で見るエニーの精神世界は、2度と元の世界に戻れないような恐怖と孤独を見る側に感じさせるシーンで、幼児を象徴する「赤」が鮮烈な印象。

母親との確執や祖母の虐待など、蓋をしていた感情を全てぶちまけるシーンは絶望的な人格崩壊を描いたように見えたが、再生のための破壊だった事がラストシーンで分かった。自分の感情と対話する事によって既成概念を打破し、囚われていたものから解放されるセルフ・カウンセリングなら、エニーが精神科医であるのも納得。なにもかも全部まとめて愛で包むラストが良い。
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