イペー

ジプシーのときのイペーのレビュー・感想・評価

ジプシーのとき(1989年製作の映画)
4.2
さすらいスピリッツ !

一人の若者の姿を通して、ジプシーの人々の生活を描くドラマ。

旧ユーゴにあるジプシー村。
ペルハンには両親がおらず、祖母と叔父と足の悪い妹、ボロ家で慎ましい四人暮らし。

意中のアズラとはイイ雰囲気。
ところが彼女の母親は、貧しいペルハンとの結婚に猛反対。

そんなある日、村の有力者アーメドが華々しく凱旋。
都会で悪事を働き、荒稼ぎをする悪党成金ブラザーズの帰郷なのであります。

祖母が彼の幼い息子を助けた縁で、孫娘の足の治療を約束するアーメド。
妹を心配するペルハンを連れ、一行はイタリアへ。

盗み、物乞い、人身売買…悪どい手段でボロ儲けするアーメド一味。
眉をひそめるペルハンに、悪魔の囁き。

「きっと金持ちになれる! 新居も結婚も治療費も思うがまま!あなたがその気になりさえすれば…!」

かくして、悪事に手を染めるペルハン。
メキメキと頭角を現し、ボスの右腕に。
故郷に錦を飾る用意もバッチリ、かと思えたのですが…。

一見して悲劇的なストーリーに、クストリッツァの魔術的演出がそこかしこ。
生命の奔流を感じさせる、素晴らしい人間讃歌となっております!

クストリッツァ作品で繰り返されるモチーフ。
結婚式やお葬式、地縁と血縁、アヒルや猫などのアニマルズ。
奔放なイメージは意味の呪縛から解放され、映画的な自由が溢れ出さんばかり!

七面鳥ごしのドタバタ劇、宙吊りの家、夜空に浮かぶウエディングヴェール…もう…神懸かりショットの数々ですよ…(ため息)

いささか興奮気味なのも止むなし。
ホントに好きなものって、易々と理屈を超えちゃいますねぇ。
未だに頭の中で、ジプシー音楽が鳴り続けております。

喜劇と悲劇、出会いと別れ、生と死。
人間という存在につきまとう雑多な要素が、天才監督の稀有なバランス感覚によって、奇妙な調和と均衡を見せています。

突き放す訳でもなく、寄り添う訳でもない、その距離感がまた心地良い。
"視点の強度"とでも言いますか。
同時に、根底には力強く"愛"があるんですよねぇ…(深いため息)

ゴチャゴチャと屁理屈をこねちゃいましたが、皮膚感覚に近いところでクストリッツァ作品が好きなもので。

そして本作も安定のクストリッツァ印。
ファンタスティックでエキサイティングな映像体験に、ハートも思考もグッチャグチャ。

自分にとっては、問答無用の傑作!
全面降伏…全面幸福でございます!

…努めて理性的な人間であろうと日々努力を重ねてきた自分ですが、故あって千々に心が乱れる、今日この頃…。
カオスな映画にカオスな自分。
考えもレビューもまとまらないけど、ボク頑張る…頑張るかんね‼︎(絶叫)
イペー

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