踊る猫

タイム・オブ・ザ・ウルフの踊る猫のレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
3.7
ハネケが描く世界の終わり。それはハネケらしく唐突で暴力的で、こちらの有無を言わせない凄みや説得力を湛えている(このコロナ禍とこじつけて鑑賞するのも一興だろう)。人の嫌なところや醜いところを見せ、簡単にわかりあえないディスコミュニケーションのもたらすストレスを見せてくる。イマイチ点を高くできないのはどこかダラダラしたしまりのなさを感じるからなのだが、しかしこれは好みの問題でもあるだろう。スピーディーかつタイトに処理してしまえばこのスローモーションがもたらすハネケらしさ(真綿で首を絞められるような感覚、と言えばいいか)が損なわれるからだ。ハネケはサスペンスのテンションで吊る作家ではなく、じわじわとこちらを蟻地獄に落とし込む作家であると思う。炎が重要な場所で登場することに興味を持った。炎自体は意志を持たずただ自然現象に従って発生し消滅する。その炎を害悪をもたらす存在として捉えるも、世界を浄化する存在と捉えるも自由だ。最後の最後の登場人物の選択はその意味で興味深い。彼は自分を消滅させることで自分の主観をそのまま消し去ってしまうという、究極の救済を選択するか否かに挑んだのではないか(……駄法螺がすぎるか?)。
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