あなぐらむ

黒い十人の女のあなぐらむのレビュー・感想・評価

黒い十人の女(1961年製作の映画)
4.3
リメイクもされている、社会生活の中の男女関係を廻るサスペンスフルな重喜劇。
ソリッドでクール、まさに端正な都会的映像の中、船越英二という容物を的にした女性達から男という生物への強烈な三行半。なんと女性の逞しい事か。
山本富士子、岸恵子という当代美人女優ツートップの、冷ややかな美貌に身震いする。

面白いのは、作中全く男女の言い分が食い違ったまま繰り返される事。証言者の言がみな食い違うのは、ミステリーの定石でもある。しかし会話は観念的ではなく、するすると観る者をこの奇妙な世界に引き込んでいく。船越英二演じる「風」という男、この男がまたこういう奴いるよねぇ、モテるんだよなぁと思わせる(船越がまた巧い)。
社会構造への批判もまだ新鮮。宮城まりこが全部持っていく感もある。

ラスト、自分のようなダメ人間にはあんな美人に一生飼い殺されるかと思うと震えがきちゃうほど嬉しいのだが、風さんたらマジメだよねぇ。
俺は仕事がしたいんだ!とか言っちゃって、冗談じゃないよ。皆からお金まで頂けるのよ。男の夢想は実際には悪夢でもあるという、和田夏十のレトリック。