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黒い十人の女のkoyaのレビュー・感想・評価

黒い十人の女(1961年製作の映画)
4.5
2008年2月13日、市川崑監督が亡くなりました。享年92歳。
岩井俊二監督の『市川崑物語』を観て、ぽつぽつと市川監督の、そして脚本、和田夏十さんの映画を観るようになったのに・・・残念です。
あと、もう、2,3本は映画を撮りたい、とヘビースモーカーで有名だった監督は煙草をやめていたそうですが。

 この映画は、市川監督の映画の話になると必ず、といっていいほど出てくる有名な映画で、本当はDVDでなく、スクリーンでなんとか観たかった映画です。

 しかし、DVDであっても、その映画の無駄のなさ、風刺のきいた内容、時にはユーモラスなミステリであり、同時に性的であり、男と女の物語であり、映像はキレよくスタイリッシュであり・・・堪能できました。

 テレビ局のプロデューサー、風(船越英二)には、本妻の他に9人もの愛人がいる。
本妻(山本富士子)はレストランを経営している他、9人の愛人=女の人はすべてなにかしらの仕事を持っています。
自分は愛人、と割り切っている女優(岸恵子)もいれば、夫をなくし、テレビ局の印刷の会社をしているものの不安がある子持ちの女性(宮城まり子)は、本気で、風との結婚を望んでいる、、、、。

 女の人たちがすごい女優さんですよね・・・・山本富士子、岸恵子、岸田今日子、宮城まり子、中村玉緒・・・・・皆、風という男に惹かれてはいますが、同時に浮気な男である、ということも十分承知している・・・って怖いですね。

 風という男を演じた船越英二は、プロデューサーで忙しいんだ、と口では言っていても、なんだか全然仕事してないみたいなところが面白いですね。
当時のテレビ局の喧噪、というのもいやってほど出てくるのですが、クレイジーキャッツの番組担当・・・といっても後ろでカツライスを食べているだけ、とか。

 本当に「風」のように女の間を渡り歩き、女たちは「風邪」をひいたように、風に惹かれてしまう。
でも、あまりに浮気症だもの・・・・女たちの不満はあります。
「あんな男、死んでしまえばいいんだわ。そう、事故にあうとか、病気になるとか・・・いるから皆が取り合うのよ」なんて話から・・・本妻+9人の愛人、十人の女で、「本当に殺してしまおうか」になってしまう。

 それを知った風という男のうろたえぶりって、ほんとうに良かったですね。
なんだかんだ言っても本妻には頭があがらず、ぼんぼんで、「こ、ころされる・・・?」とびびって本妻のところに逃げ込んだりします。
その時の風のイメージ映像(妄想)が、砂丘でトレンチコートを着た十人の女に囲まれて・・・・という映像がものすごく、美しく怖くて、スタイリッシュです。
ところが本妻、したたかですねぇ。

 さて、皆の不満を解消するための殺しの計画、どうなるんでしょう。
女たちは風を憎むというより、なんとか自分のものにならないか?と思っている。そして風という男は優しい・・・と口にする。
そんな中で、愛人第一号?の女優、岸恵子は

「確かに優しいわ。でも、誰にでも優しいってことは、誰にも優しくないってことよ」

と言い切るあたり、すごい。
確かにそうなんです。誰かを泣かしても平気・・・そんな優しさというより、自分勝手なだけですね。
それでもなんとも憎めないおしゃれで粋で、ぼんぼんの船越英二。

 たくさんの人物をテキパキと描いていく手法、着物姿の美しさもあれば、おしゃれな洋服のかわいらしさも同時に描く。
顔のアップや会話の時も、誰か女の後ろ頭が中心にあって、左側に顔を映すというのが多いのです。
なんとなく、会話をしているときの「相手の表情」をうしろ頭だけで、あらわしてしまうところなど上手いですね。

 男の役割、女の役割・・・男の気持、女の気持・・・・そんなものをテキパキと描き、そして意外なラスト。
本当に男を殺すのは、「銃で命を奪うことではない」という怖さ。
9人の女たちの個性的な描き分け。これが「理想の女(または男)」なんてものはない。

これが人間、大人の男と女というものなのだ、という和田夏十さんの脚本は巧みで、無駄がない。
モノクロの映像の良さを、存分に楽しめる映画でもありました。
特に冒頭の女たちが集まるところの光と影の使い方なんて、本当に美しいと同時に巧みだ、と思います。

 浮気男・・・というのも結構、大変なんだな・・・それでも懲りないんだな・・・という「男」を甘やかすことに喝!を入れているような爽快感がありましたね。
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