ひでやん

ベルイマン監督の 恥のひでやんのレビュー・感想・評価

ベルイマン監督の 恥(1966年製作の映画)
4.2
耳にまとわりつく絶望のノイズ。

タイトルバックとともに不穏な音が流れ、その音は次第に大きくなり、孤島で暮らす夫婦の日常に鳴り響く。故障中だったはずの電話が鳴り、平日なのに教会の鐘が鳴る。そして戦闘機の轟音、民家が破壊される爆撃音、銃声などの不条理な音が耳を襲う。

臆病な夫ヤーンと、彼を力強く支える妻のエーヴァ。信仰もなく政治にも無関心な夫婦にとって、戦争の「音」は平穏な日々を破壊するノイズとなる。茫然と立ち尽くす2人の表情、幼い子供の亡骸を見るエーヴァの瞳が目に焼き付く。とにかく人物が近い。リヴ・ウルマンの憂いを帯びた瞳がクローズアップによって印象付けられた。

いつ、どこで、という具体的な説明もなく描かれる政府軍と解放軍の内戦。抽象的に描く事によって架空の戦争を思わせるが、リアルな内面描写によって人間の本質に迫っていく。鶏も撃てなかった腰抜けのヤーンが銃で人を殺める「恥」、金のために男に抱かれるエーヴァの「恥」、逃れ逃れて生き延びて、生きるために生き恥を晒す。タイトルに込められた意味は、そんな夫婦だけの枠に留まらず、もっとスケールの大きなもののようだ。人類だ。戦争は人類の「恥」なのだ。

戦争は人間を破壊する。自尊心を、人格を破壊し、敵も味方も善も悪も分からなくなる。脱走兵の負傷した青年は、戦う理由さえも分からなかったのだろう。終盤の海に浮かぶ亡骸の群れは、「お前たちだけ生き延びるな」と行く手を阻む死者たちに思えてゾッとした。その「死」をかき分けて「生」へと進む小舟、その先に感じたものは光ではなく、救いのない絶望だった。

今作の舞台となったスウェーデンの孤島、フォーレ島。この島でベルイマンは数々の作品を撮影し、晩年を過ごしたという。そんなベルイマンが愛した島にいつか行ってみたい。
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