Ricola

パラードのRicolaのレビュー・感想・評価

パラード(1974年製作の映画)
3.7
「舞台を取り囲む人々が作り上げるショーがパラード!」
とタチが幕開けの際に発し、サーカスのようなミュージカルのような楽しいショーが始まる。
この言葉通り、舞台の人々の働きかけだけでなく、客席に座る人々の動きがショーをどんどん盛り上げていく。

舞台と席と一応分かれてはいるけれど、実際にはその区別はあまり関係がない、自由で皆が「平等」な世界のようだ。


舞台上に観客のパネルが置いてあるのは、舞台も客席の延長であるということなのだろう。
また、実際の客席にもそのパネルがチラホラ見られる。
ここからも、客席と舞台の垣根を曖昧にしていることがよくわかるだろう。

タチのパントマイムショーは、演出云々というより、単純に目が釘付けになった。
ボクシングの試合なんて、実際に相手がそこにいるかのように感じる。
殴られたときの彼の動きに、効果音が相まって痛さよりおかしさがまさる。
他にも釣りやテニスの試合の動きをスローモーションで再現するなど、タチならではのおとぼけなアニメーションのような世界が繰り広げられる。

そして、会場が一体になっていく様子に多幸感で胸がいっぱいになる。
例えば、舞台上でマジシャンによるマジックショーが始まる。
なかなかうまくいかない様子を見てしびれを切らしたかのように、観客の一人が見事なマジックを披露する。
すると一気にその観客に会場全ての視線が注がれ、客席が舞台の一部に変わるのだ。

また、ヨーデル風のショーが始まると、ヨーデルのリズムに合わせて観客も左右に大きく体を揺らして踊る。
ショーの演出で、舞台から客席へ風船をばらまく。
その風船を独り占めしようとする子供もいれば、他の人に風船を弾くように渡す人もいるし大きな体で間違えて割っちゃう人もいる。こういったひとりひとりのお客さんの反応さえも、パフォーマンスとして成り立っているのだ。

闘牛士とフラメンコの踊りから、タチのパントマイムショーのテニスの試合に。
タチの実況とともに、プレイヤーのタチがエアーで打つボールが行き来する音が会場に鳴り響く。
見えないボールを、顔を左右に動かして追う観客。これも、観客の動きもあってこそのショーなのである。

老若男女みんながみんな主役で、最初は戸惑いながらも徐々にタチワールドに呑み込まれていく。
その世界は少し変わっているけれど、全てのものや人を受け入れてくれる優しくて、非日常のようで日常の延長なのである。
日常のなかで楽しみを見つけるのが得意なタチらしい、素直さや自然体でいることを思い出させてくれる作品だった。
Ricola

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