アニマル泉

ベッドとソファのアニマル泉のレビュー・感想・評価

ベッドとソファ(1927年製作の映画)
5.0
アブラム・ローム恐るべし!ムルナウのような官能的な傑作サイレント映画である。
一つ屋根の下、若い夫婦と夫の友人が三角関係になり、どちらがベッドでどちらがソファーか、妻を取り合う不埒な物語である。冒頭からグラフィカルな構図と影が強調される。走る線路と列車の影、回る印刷機、教会から俯瞰するモスクワの街、などが幾何学的な構図で短くモンタージュされていく。光がシャープだ。人物を逆光気味に輪郭を際立たせている。何と言ってもアップが艶めかしい。さらに目のクローズアップ!革新的だ。多重露光も多用される。妻のリュドミーラ・セミョーノワが衝立越しに夫ニコライ・バターロフと友人ウラジミール・フォーゲルの会話に耳をそばだてる場面、夫ニコライがかつて幸せだった幻想にふける場面に多重露光が効果的に使われる。アパートの部屋が半地下なので、窓から通りの通行人の足の影や列車の明かりが通過するのが面白い。しかしアパートの表は描かない。ロームは「風」の作家だ。人物の出入りを風で表して見せるのが凄い。雨の夜、行き場がないニコライが帰ってくる場面、セットの中からカメラは動かずに、ニコライの出入り、リュドミーラが追いかける、二人がずぶ濡れで戻ってくる、この一連が素晴らしい。風が起こるたびにオフの扉の開け閉めと人物の出入りが巧みに表現される。そしてずぶ濡れのリュドミーラが艶めかしい。
不埒な三角関係の物語だ。衝立にかかる男の服によってニコライとウラジミールのどちらがリュドミーラとベッドで寝たかが判る。しかしルビッチのようなソフィスティケイテッド・コメディではない。リュドミーラが妊娠してしまうからだ。ウラジミールとニコライは堕胎を勧めるがリュドミーラは一人旅立つ。列車で始まり列車で終わる映画だ。列車に乗ったリュドミーラが風に髪をなびかせるカットが美しい。
ロームは列車、飛行機、乗り物の運動感にこだわりを見せる。アパートの猫が印象的。「鏡」も重要な主題でラストに鏡に映る冴えない男二人のアップが効いている。
アニマル泉

アニマル泉