むさじー

浜辺の女のむさじーのレビュー・感想・評価

浜辺の女(2006年製作の映画)
4.0
<男女の機微と人生の深遠>

ホン・サンス作品を苦手とする人は多く、私もその一人だが本作は面白い。ダラダラ恋話が延々続くのは変わらないが、男女の機微が妙にリアルに感じられた。
シナリオ作りに行き詰まった映画監督が後輩を旅行に誘い、彼女連れの後輩と三人で旅行に行くが、その彼女と出来てしまう。さすがに気まずくなり二人を追い返すが、今度は彼女似の女性と新しい恋が始まり、帰ってきた彼女との三角関係に‥‥。
他愛のない展開だが、もう若くない男女の、本気とも浮気ともつかない駆け引きの裏の、欲望のうずき、心の移ろいが響くのである。
面白いのは、彼女のドイツ留学中の男性経験を聞いた時の男たちのリアクション。後輩は嫌悪の感情を、監督は欧米人コンプレックスを示すが、彼女はむしろ“ひけらかしたい”思いに駆られている。
「隠したい、知りたくない」男と、「正直に生きたい」女。これが時代の流れか、一昔前と逆転している。
女の方が、より心が広く自由だ。心の赴くままに愛し、生きたいように生きる。無駄な虚飾は捨て、万事に意味を求めない。無為こそが人生を楽しむ秘訣。そう考えると深遠なものがある。
しかし、その深みも淡々とした男女の成り行き物語の奥にあるので、一筋縄ではいかない。普通の映画の尺度では測れない気がする。
むさじー

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