原題は「Married to the Mob」であり、直訳すれば「マフィアと結婚して」といったニュアンスになるが、日本公開時には少し捻りの効いた邦題がつけられている。この作品は以前から気になっていたが、レンタル落ちのVHSは所有していながらも、なかなか鑑賞する機会に恵まれずにいた映画である。なお、DVD化は2001年に一度行われたものの、現在はすでに廃盤となっており、ネットオークションなどでは高額で取引されることもあるため、今となっては実際に鑑賞する機会は非常に稀で、貴重な存在となってしまっている。
ジョナサン・デミ監督の「愛されちゃって、マフィア」(原題:Married to the Mob)(1988)は、ニュージャージーを舞台に、マフィアの幹部フランク(トレイ・ウィルソン)とその妻アンジェラ(ミシェル・ファイファー)を描く。夫の浮気が原因でアンジェラは家を出て新たな生活を始めるが、元ボスのトニー(ディーン・ストックウェル)から執拗に言い寄られ、FBI捜査官マイク(マシュー・モディーン)にも監視される。
撮影監督はタク・フジモトであったが、物理的に劣化したテープでの鑑賞のため、彼の意図したフィルムの雰囲気を十分に楽しめなかったのは残念である。音楽はデヴィッド・バーンが担当している。おそらくトーキング・ヘッズのライブドキュメンタリー「ストップ・メイキング・センス」(原題:Stop Making Sense)(1984)の縁から仕事を受けたと思われるが、もっとクセのある音を使うかと思っていたが、実際にはサルサなど、当時のバーンが民族音楽に傾倒していたかは不明だが、ショットごとに効果的な音楽を小気味よく使用しており、アーティストとしての自己主張を抑え、映像と音を調和させていた。(ただし、挿入歌のニュー・オーダーは違和感を感じた。)
「羊たちの沈黙」以降の作品、例えばLGBT問題を描いたトム・ハンクス出演「フィラデルフィア」(原題:Philadelphia(1993)や、リメイク版の「シャレード」(原題:The Truth About Charlie(2002)、「クライシス・オブ・アメリカ」(原題:The Manchurian Candidate)(2004)などは佳作レベルであり、傑作とは言い難い。本作を鑑賞して感じたのは、アカデミー賞受賞が後のデミ監督に無言のプレッシャーを与え、無理をさせてしまったのではないかということである。ロジャー・コーマンの門下生として、気負わずにコメディタッチの作品に戻っても良かったのではないかと思う。