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平成ジレンマのtetsuのレビュー・感想・評価

平成ジレンマ(2010年製作の映画)
4.2
東海テレビ最新作公開記念、シアターセブンの特集上映にて鑑賞。

代表者の体罰によって多くの若者が犠牲になった"戸塚ヨットスクール事件"。
これは、その事件の30年後、加害者である男・戸塚宏と、戸塚ヨットスクールの
現在に迫ったドキュメンタリーである。

鑑賞前は、平成の一大事件を振り返るドキュメンタリーだと思っていた本作。
しかし、実際に観てみると描かれていたのは「体罰問題」と「ゆとり教育の闇」でした。

本作は『さよならテレビ』や、その他の東海テレビによるドキュメンタリー作品同様、社会的な価値観が本当に正しいのかを考えさせる一本。
とりわけ、今回は「教育における体罰が正しかったのか否か」という部分が主題となり、体罰問題で逮捕され、後に出所した戸塚宏さんを中心に作品は進んでいきます。

「罰と言うのは、相手が進歩するためにやるものだ。」と語る戸塚校長の言葉は正しいとは言えませんが、観賞後、間違っているとも言えなくなってしまうのが、本作の恐ろしいところ。

体罰のない世界になってしまったから、弱い心を持った若者(ニートや引きこもりなど)が増えてしまったと考える戸塚校長の思想は非難されるのもごもっともな意見かもしれませんが、作品を観ていく中でそれを否定できなくなってしまったのも事実ではあります。

特に現在のヨットスクールに集う若者たちの一人、いじめられっ子の小学6年生・丘晃くんのシーンが印象的でした。
「強くなりたい」と思いながらも、自分の弱さについ甘えてしまう葛藤を抱える彼と、そこでついに起こってしまった"いじめ"に対して「相手との差を感じて、初めて強くなれる」と語る戸塚校長の言葉、それこそが、ゆとり世代として甘い生活をしてきた自分にとって深く突き刺さり、いつの間にか目が離せなくなっていました。

そして、終盤で触れられるある"衝撃的な事件"。
メディアが報道で切り取る"部分的な事実"ではなく、そこに至るまでの経緯を知っているからこそ理解できる本当の"事実"。
それには、メディアが伝えることがいかに脆弱であるのかを感じましたし、記録メディアとして映画が存在している意義を深く考えさせられました。

というわけで、タイトルからは、内容が全く想像できない本作。
しかし、映画を観た後には、確実に「現在の教育」に対する価値観が変わりますし、より今後の日本教育について考えたくなるような、衝撃的なドキュメンタリーの傑作でした!

P.S.
本作のパンフレットには、是枝裕和さん、森達也さんなど、名だたる方々の作品エッセイが掲載。ぜひ、これから、ご覧になられる方はご購入をオススメします。

参考
『さよならテレビ』公開記念 特集上映「東海テレビドキュメンタリーのお年玉」 / シアターセブン
http://www.theater-seven.com/2019/mv_s0163.html
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