2011年公開。J・C・チャンダー監督デビュー作にしてベルリン映画祭コンペティション候補。
21世紀はどこから始まったのかという問いがある。今やコロナ禍以降2020年を始点とする意見が多いが、この世紀を仮に分断格差の世紀とするならばやはりこの年ではなかろうか。
2008年初秋
舞台は名称不詳のとある投資銀行会社。深夜、緊急事態に招集される役員一同。マージン・コールは証券用語でもあるがここでは単に緊急呼び出しの意。MBS 不動産担保ローンだとかボラタリティだとか専門用語も出てくるがあまり重要ではない。
事態の切迫感は、43歳で上級管理職にあるジャレッド(サイモン・ベイカー)の態度で伝わる。
今何時だ 2時15分です
クソッ その神妙な顔が深刻さの裏付けだな
次から次へと上役にエスカレーションが上がっていき最後は空へ。ヘリで現れるCEOのジェレミー・アイアンズ。この人の威厳、オーラ。礼儀正しい悪魔にしか見えない。男の名はジョン・チュルド。リーマン・ブラザーズ最後のCEOの名はリチャード・フルド、、、やっぱりそうか。
崩壊前夜の緊張に満ちた長い長い夜。明けたら世界は地獄。ドーン・オブ・ザ・コラプス
あの時、こういうことが実際にあったのだろうなと思わせる。今だからこそ誰だってあの頃のウォール街は赤信号だと言えるが危機の中にいては見えない。
人間の愚かしさをまざまざと見せられる。
まったくの無価値、ゴミと知りながらもそれらを売りさばく。彼らの高給の源は欺瞞にある。
サム(ケヴィン・スペイシー)はCEOには抵抗を示しながらも最終的には自分を裏切り部下に命じる。部下たちは破額の報酬を示されながらもほぼ全員がその日のうちに解雇された。
彼らは被害者でもあるが同時に加害者でもある。この焼け野原ぶり。
前日にクビを免れた2割の社員たちに「これはキミたちの機会だ」と言って拍手していたサム、あれも特大ブーメランだった。愛犬の亡骸と一緒に自分の良心を一緒に埋める姿には言葉もかけられなかった。
ある体制が終わりを迎える、その日、その時、その夜。結局は人間のすることに大差はない。
『日本のいちばん長い日』や『ヒトラー 〜最期の12日間〜』などにも通じるドラマに見えた。経済クラッシュということ以上に現代世界を考えるうえでの色々な気づきがあった。
この世には他人のことを一切気にかけないことによって成り立っている地位がある
人々の生活や幸福と完全に矛盾する、バッティングする仕事や組織がある
(普通そのことを反社会的と呼ぶのだが)
そして彼らはそのことを十分すぎるぐらいに知っている
新米の手前ウィルは自らの立場を正当化していたが、CEOになるともはやそういう感覚すらなかった。通常運転だ。歴史上何度もあったことだと。
初めから立っている場所が違いすぎる
不思議なものでホンモノの悪には意外と反感は沸かない。魅力的だとすら感じてしまうのが怖い。代わりに怒りは中途半端な存在に向けられる。
最も嫌だったのは上級管理職のジャレッドとサラ(デミ・ムーア)がエレベータ内で清掃のおばさんを挟み会話するシーン。彼らの目におばさん(一般人)は存在しない、見事に。
かわいそうなおばさんは、まるでハブとマングースの檻に放り込まれた小鳥のよう。あんなハラスメント描写、ちょっとない。
生活世界を破壊し続けるレッセフェールの猛威、暴威。生きているうちにあと何度このような光景を見せられるのだろうか。
もう一度、<社会>の中に<経済>を飼い馴らす。解き放たれてしまった猛獣の首に鈴をつけることは出来るのだろうか。