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もうひとりのシェイクスピアのdenizのレビュー・感想・評価

3.8
「"言葉"が王国に勝利したことがあるか?」

ローランド・エメリッヒ監督による「シェイクスピア別人説」を題材とした本格派史劇。
孤独な女王、平民出の宰相、それを妬む貴族、玉座を窺うスコットランド、宿敵スペイン…。無数の思惑が交差する16世紀末エリザベス朝が舞台。
ある時ひとりの伯爵は、言葉が持つ"力"に気付きを得た。
もしも1人の作者の思想に、1万人が耳を傾けたならば。
果たして"言葉"は政治を、世界を動かせるのか。

時代が時代なだけに、登場人物が多く相関図を理解するのがひと苦労ながら、俳優陣が端から端まで良い!!
本作の"真のシェイクスピア"こと、オックスフォード伯エドワード役のリス・エヴァンスが、色気ある厭世貴族を好演。公開が待たれるキングスマンでのラスプーチンへの期待が俄然爆上がりである。
その青年期を演じたジェイミー・キャンベル・バウアー君は、グリンデルバルドに引けを取らないイケメンぶり。
敵役となる宰相セシル父はルーピン先生ことデビット・シューリス。老狡猾な演技が本当に秀逸。
唯一シェイクスピアの謎を知る男、劇作家のベン・ジョンソンくんが個人的にMVP。嫉妬と憧憬に苛まれる苦しい役どころがとても印象的だった。
 
作中でエドワードは「政治性のない芸術などただの装飾だ。」と両断した。
ふむ…と納得する傍ら、政治性のある"言葉"は一歩間違うとプロパガンダと成り得てしまう。きっかけはひとりの思想だとしても、時代を動かすべきは、耳を傾ける1万人ひとりひとりの判断とモラルであってほしいな…と思った。
…脱線しましたが、現代の劇場から始まる本篇への導入とエンドロールが、作品の雰囲気に合ってとても素敵。
UFOも謎の生命体も登場しないエメリッヒ監督の隠れた(?)傑作。
登場人物がとても重なっている『恋におちたシェイクスピア』とセットで大変おすすめです。
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