Oto

空気人形のOtoのレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
4.2
主人公が自分すぎて辛いから没入しすぎないようにして観てしまった。「自分だけ空っぽだってばれたくない」も「代えのきかない存在になりたい」も「空っぽの存在に空気を入れてあげたいのに入れられない」も自分すぎる。
魔法の成立のさせ方が巧妙で、彼女の存在を根底から覆そうとする第三者は誰もいないし、撮影を工夫して低予算の中で存在にリアリティを持たせている。キャスティングも見事でイントネーションから空気で膨らむ芝居までどれも見事だった。空気を入れてあげるという新たな官能表現の発見だけど、それがにつながるのも素晴らしい。

群像劇で全員が立ってるけどおじいさんが特に好き。世界の全てが尊く思えるような詩とか、「触って」が勘違いされたりとか。バスで寝ているおじさんとか人参を放り投げる少女とか全員が愛おしい。

ジャンルで言えば「人生の岐路」なんだろうけど、板尾さんの設定が絶妙で上手い。初めは『キングオブコメディ』のデニーロみたいな狂人を想定したけど、理由のある辛さで有ることが明かされていって、最後に空気人形に言うセリフの殺傷能力が高すぎたけどその気持ちもどこかわかってしまうという辛さがあった。世界を知る場所がレンタルショップというのも素敵だし上手でそこに潜む卑近な悪もリアル。
『生きる』を連想する部分も多かった。存在の消失によって世界がほんの少しだけ良く変わったように感じられるたんぽぽとか。

第2ターニングでオダギリを使っちゃう贅沢さ、フィルター越しの街の灯、代用品と知りながら帰宅する悲しさ、語りたいことはいくらでもあって分析しながらまた観たい気持ちもありつつ、辛くてもう観たくないと言う気持ちもある。 
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