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そして父になるのtjZeroのレビュー・感想・評価

そして父になる(2013年製作の映画)
4.2
ドキュメンタリー出身だからって訳ではないかもしれないけど、是枝裕和監督のフラットというか、公平な目線にはいつも惚れ惚れさせられてしまう。

無私無欲な神サマが地上を観察しに降りて来て、キャメラを廻しているかのよう。

老若男女のキャラクターを化学物質を混ぜるように組み合わせ、「ハイ、今回はこの集団がこんな風に家族として機能しています」って、顕微鏡の中の実験結果を映画として毎回見せてくれている感じもする。

演者は今回もすべて素晴らしいけど、主演の福山雅治が特に良い。
被害者の立場なのに、観客のほとんどから嫌われるであろう難しい役を絶妙のバランスで演じている。

印象的なのは、彼が義母役の風吹ジュンに電話をかけるシーン。
深夜のクルマの中で独り、謝罪の言葉を絞り出すように語りかける。
照明の当て方、深い影の作り方…まるでハードボイルド映画のワンシーンみたい。
苦みとか悔恨とか、哀しみとかを湛えた胸に沁みる場面でありました。

精神的なつながりは血縁をも越えるはず…という映画全体からのメッセージが力強い。
どんどん内向きになって分断や排斥が激しくなっている世界的風潮に、こんなミニマムな映画が真っ向から抗っているのが頼もしい。
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