円柱野郎

凶悪の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

凶悪(2013年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

実際に起きた事件を基にした話で、その内容は恐ろしいことのはずなのに、映画として観てしまうと少し物足りない。
冒頭での橋からの突き落とし・強姦・焼殺・舎弟の射殺…と、やりたい放題だった死刑囚・須藤の行為が1つの話に繋がっていくところは、物語としてのカタルシスにもなっているとも思う。
だけど「冷たい熱帯魚」の様な狂気と絶望が渦巻くような、下から煮られるような感じが無いんだよなあ。
事件の取材と、事件の内容と、その後の裁判で時間が分断されているのもテンションが変わってしまう原因か?
個人的には裁判で次第に明らかになっていく話の方が、映画としてはベタでも盛り上がったような気もしたけれど。

役者は主演の3人とも良い。
いかつい須藤役のピエール滝も好演だけど、特に木村役のリリー・フランキーは良いね。
飄々としているリリー・フランキーの雰囲気が、木村がプロデュースする日常的殺人の異常さを良い具合に表現していると思う。
金のために老人を殺す…、そこに良心の呵責なんぞ微塵もなく、それが生活の一部という空恐ろしさ。
あまつさえ、「油田」に例えてしまうような神経の持ち主は…?
そう考えるとまあ普通じゃない。

でも映画そのものが凶悪としているのは、人間の本質みたいなところで、分かりやすいところでは「木村を一番殺したがっているのは記者自身」というエンディングでの指摘か。
そのテーマで行くと、中盤で須藤が「4つ目の殺人」と告白したシーンの、「それ木村が絡むんですか?」「木村は関係なかったな」「そりゃあ…ハハハ」と笑いが込み上げる主人公を見せたところがハイライトなのかもしれない。

ただ、本筋の事件と主人公の絡め方はそれ以上に上手い場面があるとは思わなかった。
家庭の事情…痴呆の母親を老人ホームに入れるかどうかというくだりも、劇中の保険金殺人の内容との対比だというのも分かるけれど、どうもピンとこない。
そもそも記者がなぜここまで入れ込むのか…、この事件に対する執念の源泉がなんか分かりにくかった気がするんだよね。
円柱野郎

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