爆裂BOX

蝿の王の爆裂BOXのレビュー・感想・評価

蝿の王(1963年製作の映画)
3.8
核戦争が勃発した近未来。陸軍幼年学校の生徒達を乗せた飛行機が墜落した。一命をとりとめた24人の少年たちは、近くの無人島へ漂着するのだが…というストーリー。
ノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングの傑作小説の最初の映画化作品です。スティーヴン・キングらにも影響与えたことでも有名で、日本でも楳図かずおが「漂流教室」で影響受けてますし、望月峯太郎の「ドラゴンヘッド」も影響受けてますね。今回自分が鑑賞したDVDのジャケットは楳図先生デザインの特別版でした。
無人島に流れ着いた24人の少年たちは、ラルフとピギーを中心に規則を作り協力してサバイバルを行うも、ラルフの事が元々気に入らない聖歌隊隊長のジャックは聖歌隊のメンバーと独自に狩猟隊を作り、狩りを行う中で野性に目覚め狂気に染まっていきラルフたちと対立していくという内容です。
原作に忠実に映像化されていますね。原作ではどういう戦争かはっきり描かれていませんが、本作ではイギリスが核攻撃を受けた為という設定になっています。冒頭スチル写真で冷戦から核戦争に、そして子供達の疎開までが描かれます。ここも原作と同じく墜落シーンなどなくジャングルを歩くラルフとピギーのシーンから始まります。
投票によりリーダーとなったラルフを中心としてサバイバルが始まりますが、初めは子供達らしく割と遊びのような感じでほのぼのとした空気もどこか漂うサバイバルが始まりますが、聖歌隊のリーダーとしてきちっとした感じだったジャックが聖歌隊のメンバーと狩猟して初めて子豚とってから徐々に野性に目覚め始めます。ちょっと野性に目覚め始めるの原作と比べると早い気もしますが、尺が限られてるだけに仕方ない事でしょうね。
小さい子が海から上がってくる獣を見たと言い始め、更に探索してなかった島の山頂である物を見て皆が獣の存在を信じ始め恐怖に陥っていく姿も見物です。タイトルの「蝿の王」は悪魔ベルゼブブの事で、作中で供物として捧げられた豚の生首に集る蝿の群れを指しています。
初めキチッと聖歌隊の服を着こなしていたジャックを始めとした狩猟隊のメンバーが裸に近い格好になって顔にペイント施して原住民のようになり、海岸で奇声発したりトランス状態になる様は異様な迫力あります。その状態によって第一の犠牲者が出るシーンはゴア描写ないけど中々ショッキング。波間に漂う死体も無残な感じ醸し出してます。
リーダーになったけど初めはそれほど重く構えてなかったラルフが、狼煙が消えていたことで飛行機に発見されるチャンスを逃したことから、リーダーとして責任感が芽生えていく所もしっかり描かれてますね。でも次々仲間に離れられていったから求心力のあるリーダーじゃなかったんだなぁ。まあ、子供だから仕方ないけど。
喘息持ちの太っちょ眼鏡ピギーや最初に熱中症で倒れたり身体弱そうなサイモンといった子達が知性も高くて冷静に状況を見極めているのも面白いですね。サイモンは「獣は自分達の中にいる」と最初に気づいて、豚の生首通して自分の中の獣と向き合ってましたし、ピギーもいじられながらも常に現実的で状況を冷静に分析し、ラルフを支えていましたね。でも、どちらも最後が悲惨なのは可哀想すぎました。
ピギーがああなって囃し立ててた狩猟隊が一気に静まり返る所も妙にリアルでした。ジャックの反応的にも彼もあんなことは予想してなかったんだろうな。逆にあれで引っ込みがつかなくなったともいえる。
森の中や海岸を逃げ回るラルフを狩猟隊の「ブタを殺せ!首を撥ねろ!」という声援が追い掛けて取り囲んでくる所の追い詰められ感半端なかったですね。
ラストの呆気ない幕切れも祭りの後のような感覚を残します。少年が現れた大人に近寄って体に触るのも目の前の光景が信じられないという感じをよく表してたな。ラルフの静かに涙を流す表情のアップも強く印象に残ります。
古いモノクロ映画ながら原作に忠実で状況によって変化していく人間の姿が描かれていて見応えある作品でした。