秋日和

ブエノスアイレス恋愛事情の秋日和のレビュー・感想・評価

ブエノスアイレス恋愛事情(2011年製作の映画)
3.5
鏡という装置が世界を歪め、引き裂き、曇らせながらも、自分という人間と向き合わせてくれる……。数々の技巧を凝らした本作は、一見器用そうに思えるけれど、実はとても不器用な映画だと思う。どうしてかというと、引用の仕方にまるで工夫が見られないから、としか言いようがない。どうにも人生上手くいかないな、という時にヒロインが観る映画はウディ・アレンの『マンハッタン』(それもかの有名な「たまには人を信じてもいいんじゃない?」のシーンを切り取るストレートっぷり!)だし、元恋人から観ようと誘われた映画は『恋はデジャ・ブ』(まるで、「何度だってやり直せる」と言ってるかのよう!)だ。ジャック・タチ(『プレイタイム』)、ミケランジェロ・アントニオーニ(『夜』)、ホセ・ルイス・ゲリン(『ある朝の思い出』『工事中』『シルビアのいる街で』)等の名前をついつい想起してしまう”あざと可愛い”ショットを繰り広げながらも、この映画がどこか拙く思えるのはそのせいだろうか。でも、それで良いと思う。不器用で結構。変にカッコつける必要も、シネフィルぶる必要性も全く以ってないのだ。

本作は紛れもなく21世紀に撮られた映画なのだけど、そうは思えない、あまりにも古典的な演出が時々施されている。一つだけ紹介するならば、「ある商品を取る為に同時に伸ばした男女の手がぶつかる」といったような感じのシーンが堂々と描かれているのだ(どう考えても馬鹿馬鹿しくて能天気で最高だ)。

観終わって約1時間経ってこのレビューを書いているけれど、実際のところ自分の中で全く以って消化できていやしない。どうしてこんなにも不器用な映画が良いと思えるのか。どうしてあんなにも馬鹿みたいな演出で涙を出さなくてはならないのか、サッパリ分からない。ただ、取り敢えず言えるのが映画で流れる『Ain't no mountain high enough』はどう考えても最高で、どう考えてもズルいということだ(「どんなに高い山でも どんなに険しい谷でも どんなに大きな川でも 僕が君のもとに行くのを阻むことはできないから」!)。
秋日和

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