あなぐらむ

OL日記 牝猫の情事のあなぐらむのレビュー・感想・評価

OL日記 牝猫の情事(1972年製作の映画)
4.1
とんでもない映画。
タイトルからは全く想像できない、夢か現か、こわれゆく「おんな」に絡めとられていく平凡なサラリーマンの悪夢。マンション暮らしが夢だった時代の個室が産む恐怖。掴みきれない個性、魔性をもつ中川梨絵だからこそ描けたファナティックな世界。これもまた殉愛の映画だろうか。たぶん粗筋を読んでも全然この映画の事は分からないので御用心を。

加藤彰監督の映画は、男と女がそこにいるだけでスリリングなサスペンスが立ち上がる、そんな可能性を示している。消えた女、捜す男、監禁、現在と過去の時制が交差するその削ぎ落とされた演出が、観る者を着地点不明なドラマに誘い込む。加藤監督は「部屋」に男女の関係性を象徴させる。その白眉が「牝猫の情事」だろう。藤井克彦が「アブストラクトだ」と指摘するのも分かる。

加藤監督は本作で8分間の長回し撮影を行った。カメラは流石の姫田真佐久、特別なフィルムケースをミッチェルに着けて挑んだそうで、なんとテストから梨絵さんも山田(克朗=児玉謙次)さんもNG無しだったから、そのまま行ったらしい。後日神代さんが悔しがって、「四畳半襖の裏張り」でも長回しをやったというのが笑える。

どこかお人形のような印象もある梨絵さんとは対照的に、情婦としての倦怠とむせるような色香を見せる宮下順子が好一対をなす。この組合せは「愛に濡れたわたし」で再現(反転)される事になる。
浅川マキ「夜が明けたら」が、この宮下順子パートのラストで印象的に使われている。