Fitzcarraldo

刺青のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

刺青(1966年製作の映画)
4.8
谷崎潤一郎の処女作『刺青』と、同じ短編小説である『お艶殺し』を新藤兼人がremixして脚色。「妖しい官能の異常な世界にひきいれる谷崎文学の完全映画化!」を惹句に、若尾文子✕増村保造のゴールデンコンビで送る名作。

重く暗い雰囲気と構図、カメラの置くポジション、撮影監督の宮川一夫による全てのショットが最高に美しい。

美術と小物の置きどころ、人物の配置、色の配置、奥行きの使い方、そして明暗…すべてが美しい。

最近の映画は、とにかく人物に寄って背景をボカすばっかりで…ボカせばいいと思ってるような節がある。背景ボケさえすればシネマライクのルックになると勘違いしているようなきらいがある。

やはり美しい画を見たい。
物語の展開や、人物の成長譚、そして音楽…様々な要素を組み合わせて映画はできているが、大前提として美しい画を見たいというのが基本であろうと思う。

その画の美しさに重ねて若尾文子の美しさによる相乗効果は言葉では表せない。

細部に亘る美術の西岡善信も素晴らしいし、照明の中岡源権も宮川一夫との相性の良い仕事をしている。

衣裳のクレジットがなかったのだが、美術と兼務なのかな?とにかく若尾文子の重ね着した着物が滅法美しい。下から順々に重ねていく色味と柄、そして着こなし、どれを取っても素晴らしい。

襟口が背中の方にザックリと落ちたデザインのシャツを着ている女子をここんとこよく見かけるが、あれは若尾文子から来てるのか?!本作の若尾文子の着物の着こなしに随分と近いものを感じる。襟元が開いて背中から首筋にかけて見える若尾文子の美しい肌からエロスの香気が漂う。

赤の長襦袢、その上に薄水色、その上に水色の花模様と赤色の格子模様。さらにその上に山吹色。さらにくすんだ青と白の格子模様。そして帯は赤と紫の模様が入り乱れて…この着こなし!素敵すぎる。いやーカッコイイ!



○夜道
雨降る夜道。
酔が回り、ゲロを吐く長谷川明男演じる新助。
そこへ親分命令で殺しにかかる木村玄演じる三太。

充分に酔っ払わせておいての奇襲なのに、全くドスで刺せない三太。酔っ払い相手にめちゃめちゃ手こずってる。これは…カメラ位置、そして構図はカッコイイんだけど刺せなすぎてテンポ悪い。逆に番傘を振り回して優勢にも見える新助。

ゲロ吐いてスッキリして酔いが治まったってことかな?刺す刺せないの攻防が冗長に感じて、世界観に没入してるところなのに、急に嘘くさく見えてしまって、現実の世界に戻されてしまう。

ここはブスッと一発で刺した方が美しいように感じたが…それだと話が変わってしまうので、もつれるのも致し方なしか…もう少し動きというか…これにも殺陣師が付くのか分からないが、シンプルな動きの方が構図の美しさと相まっていいように思う。全く関係のないところを刺そうとするような仕草は構図の美しさから外れてしまう。


○旗本芹沢の隠し宿
内田朝雄演じる徳兵衛と共謀して、若尾文子演じるお艶は100両ぶんどる作戦であったが…佐藤慶演じる芹沢を落とすことができず…

お艶
「ふん、バレりゃぁもともとさ。なんだい!大層利口ぶった口をおひきだけど、女に騙されて金を取られるようでなきゃ、1人前の遊び人とは言えないよ!ケチな野郎め!100両ばかりのはした金に目の色変えやがって!金が惜しけりゃ女に惚れんな!」

よっ!名言きた!すぐ割り勘する男どもよ、この台詞を噛みしめて勉強しなさい。Barで散々っぱらカッコつけ、知ったかぶりのウンチクと能書きをタレてた男が、会計になった途端に割り勘をせびるケチな野郎を何人も見てきた。今夜にでも抱こうと見え見えの下心を出すくらいなら、そこはオマエが払えよ!と言いたい。金が惜しけりゃ女に惚れんな!
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