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ゼロ・グラビティのQTakaのレビュー・感想・評価

ゼロ・グラビティ(2013年製作の映画)
3.6
〝GRAVITY〟なのか?
「ゼロ・グラビティ」なのか?
そこをはっきり見極めよう。
私は、やはり、〝GRAVITY〟だと思う。
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公開時に3Dで見たのを憶えている。
当時、3D映画はまだ珍しかったので、もちろん映画館での3D映像は初体験だった。
その時の感想としては、あまり良いものでは無かったように記憶している。
この年のアカデミー賞を受賞するのだが、なんともハリウッドらしい商業主義だなと思った。
映画としての面白みはほとんど感じていなかったからだ。
今回、再見して見て少し印象が変わった。
今回は、もちろん2D版で普通に映画として見たのだが、意外と話になっていることに気付いた。
そして、何といっても地球が奇麗だ。
スペースシャトルでの船外活動から始まるのだが、いきなり眼下に青い地球を臨む映像が凄い。
映画を通じて、この地球の映像が、様々に表情を変えて映し出されて行く。
宇宙空間に放り出されて漂いながら見る地球は、ものすごく大きい。
この圧倒的な大きさが、人間の小ささを強調することになっている。
「ちっぽけな人間」という表現がぴったりくる。
クライムサスペンス的な展開も有りながら、こうして映像美、映像表現の妙を追求したこの映画は、やはり必見の一本なのかもしれないと思った。
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邦題が『ゼロ・グラビティ』となっている。
原題は、〝GRAVITY〟。
これでは、全く逆の意味ではないか。
一方は「無重力」と言い、他方は「重力」と言っている。
一体どっちなんだ!
この映画の題名は、〝GRAVITY〟(「重力」)だと思う。
確かに、映画冒頭の船外活動シーンで、「無重力での活動に慣れていない」というセリフで、〝Zero gravity〟という単語が出てくる。
でも、この映画の舞台は、無重力空間ではない。
宇宙空間ではあっても、地球の重力の影響を受けており、実際には自由落下状態である。厳密に言うと、無重量状態と言うことになる。
そのことは、映画の中に見て取れる部分が有る。
無重量状態は、状態としては無重力と同じであるから、たとえばISSの中の物質の動きは、無重力状態と同じだ。
だから、色々なものがぷかぷか浮いているし、水も水玉になって浮いている。
さらに、火災の描写で、炎がまあるく浮かんで燃えていた。
こういった描写は見ていて面白い。
中国の人工衛星『天宮』が軌道を外れて落下し始めていた。
このような人工衛星も自由落下状態であるから、徐々にその軌道が下がって行く、さらに下がりすぎると、大気の上層に触れることになり、摩擦によりブレーキがかかってしまうとさらに速度が落ちて、遠心力を失い、地球への落下速度が増して行く。
実際、この映画では、『天宮』は地球大気に突入して燃えてしまう。
このように、宇宙空間のシーンがほとんどなのだが、そのいずれの状況においても、重力がかかっていると言うことになる。
そして、もっとも印象的なシーンがラストに有る。
海上に落下し海中に沈む再突入カプセルからの脱出シーンだ。
海中に沈むカプセルから脱出して、水中を泳ぐのだが、この時点で活動にあまり支障はない。
浅瀬に泳ぎ着き、はうように岸に上がって行くのだが、砂浜にはいつくばって起き上がれない。
そこで、思わず微笑む。
この微笑みを、地球へ降りてこられたことへの安堵の笑みと採るか、あるいはその身に感じた重力に対して、今し方までの宇宙空間と違う何か(重力)に対しての確認のような笑みなのか。
そう、ここで重力の強さを実感するのだろう。
はるか上空数百キロメートルから落下してきた間、ずっとこの重力に支配されてきていたのに、そのことに今、地上で初めて気付くということか。
ようやく、その重力を受け止め立ち上がる。
それがこの映画のラストシーン。
つまり、この映画の主題は〝GRAVITY〟「重力」ということになる。
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