ふしみあい

パトリオット・デイのふしみあいのレビュー・感想・評価

パトリオット・デイ(2016年製作の映画)
4.7
史実を映画にするの、本当に上手いなあこの監督。

爆発する、ということは観る人全員わかっているので、問題はそれをどう持って行くか、どう演出するか、どう見せるか。
レースが始まる直前のカウントダウンのような音響、幸せな市井の人々の描写、暗い目をした犯人の日常、主人公マーク・ウォールバーグの性格、生活など。
それらが冒頭できちんと提示され、爆発の瞬間へと誘われる。

爆発の描写も生々しく、犠牲者の子供の横に立つ警官や、もげた足など恐ろしくもあり、悲しくもあった。
犯行に及んだ犯人の生活も見せることで、本当の悪とはなんなのか、また、本当に悪は存在するのか、爆弾を作って一般人を殺すのは確実に悪だが、それが逆にアメリカ人を団結させることに繋がっていることの虚しさ、みたいなことを考えてしまった。

一見関係ない人が後半犯人の逃走によって一気に事件に絡み合って行く勢いがすごい。
また、犯人との住宅街での撃ち合いがめちゃくちゃ豪華。
JKシモンズのかっこよさたるや…!

監督はフラットな視線で犯人とそれに立ち向かうボストンの人々を両方描いたのだろう。

悪が退治され、ボストンの人々が歓声を上げているところで、私は少しゾッとしてしまった。
監督が犯人側の生活も描いていたからこそ、見る側は考えさせられてしまう。この人たちにも普通の暮らし、犯行に至る恨みや考えがあったのだと。

タイトルの通りパトリオットデイ、愛国者記念日、アメリカを礼賛し勧善懲悪、犠牲も多少は出たが悪はボストンから追放された、万歳!を描きたいのであれば、犯人の描写はまるまる省けば良い。
赤ちゃんをあやすカットや質素な部屋、それらを入れるのがこの監督のすごいところだと思うし、この映画の評価が高い要因の一つだと感じる。

きっとこの映画を観たアメリカ人もどこか気まずさのようなものを感じたのではないだろうか。自分たちが本当に正しいのか、そもそも正しさとはなんなのか。
アメリカ人の監督がこれを撮れるのが偉大だなあ。