ふしみあい

シシリアン・ゴースト・ストーリーのふしみあいのレビュー・感想・評価

5.0
1993年シチリア島で実際に起きたジュゼッペ誘拐事件をベースに、ファンタジーを交えながら少年に起こる出来事を描いていく。

子供たちではどうにもできない
非常な現実の中で、空想だけが二人が出会える場所だった。

シチリアの景色を美しく捉えつつ、どこか不安にさせるようなカメラワークが秀逸だ。
また、大人(マフィア)が支配する暗くて重い現実社会と、陽だまりの中に生きる子供たちのコントラストが見事だった。

そして何よりも主演二人の演技が素晴らしい。ジュゼッペの静かな眼差しに何度も息がつまり、ルナの固い意志を感じさせる表情から笑うと年相応になる不思議な魅力に虜になる。
もう自分はここから出られないのだと、ルナからもらった手紙を埋めようとするジュゼッペ。しかし泣きながら掘り起こしてしまう。絶望の中の一筋の光を見失わまいとした姿はこの映画の中でも1番のショットだったように思う。

今作では現実世界と空想世界との架け橋として水が重要なモチーフとなっている。水は循環するものであり、巡り巡って少女を少年の元へ、少年を少女の元へ運んでくれる。
垂れ落ちる水から、溜まっている水、蒸気、水に身を投じる少女、投じられる少年。
一つのモチーフを決めてそれを様々な角度から切り取っているのだが、全然これ見よがしじゃないし、かといって上品すぎることもない。ラスト近くの水中の長回しは、ここ数年観た映画の中でも一二を争うショッキングなシーンだった。

映像とともに脚本が、より今作の独特な雰囲気を作っているように思う。登場人物が発するちょっとした言葉や場面の遠くに映るものにハッとさせられ、まるでジュゼッペを探すルナのように、どんどん映画にはまり込んでいく。

実際の事件は重く悲しい出来事であるが、最後のシーンでは、実際のジュゼッペにも救いがあってほしい、と強く願わずにはいられない。それまで死が漂っている暗澹たる空気から一変、陽だまりの中笑い合う少年少女が描かれる。その一瞬のカットに監督の思いが詰まっているような気がする。

監督コンビはシチリア島出身でこの事件が起きた時とてもショックを受けたそうだ。徐々に風化しつつあるこの事件を、人々に広く知ってもらいたいという思いで作ったそうで、そういった意味では大成功していると言えるのではないだろうか。情報伝達に映像は最も効果的であると思うが、それにファンタジーという要素を織り交ぜつつ一つの映画にする手法がとても鮮やかだ。
私は一生ジュゼッペ誘拐事件を忘れられないと思う。改めて映画の持つ力を感じられる一作だった。