くわまんG

キッチン・ストーリーのくわまんGのレビュー・感想・評価

キッチン・ストーリー(2003年製作の映画)
4.0
癒されようと思って観たらバッチリ社会派ヒューマンドラマで、ラストは結構衝撃でした笑…でも、ただほの甘いだけではないのが良いですね~。

みどころ:
微笑をかき消す苦めの結末
クスッと来るやりとり
美味そうな食事シーン
歴史の勉強が要りそう

あらすじ:
戦後、徐々に物が豊かになり始めた50年代後半。欧米では主婦業の効率改善が叫ばれ、新たな戦い“キッチン界隈の主導権争い”が始まっていた。
スウェーデンのとある台所用品会社は、主婦の行動パターンを徹底解析。監視員を台所に配置し、被験者とは一切接触せずにその立ち回りをつぶさに観察する、という狂気の手法を取り入れ、事業に成功していた。
この度新たな市場開拓のため、調査対象は独身男性に変更。お隣ノルウェーに派遣された調査員の一人フォルケは、担当である身寄り無し老人イザック宅にお邪魔することに。しかし、主婦と違い殺伐として動きの無い生活空間に、会話を禁じられたオッサンが二人、気まずいどころではない。変化は当然のように訪れ、ついにルールは破られてしまうのだが……。

常に誰かに観察されている現代社会の不愉快が、各々の自業自得であることを指摘するとともに、様々な目安で差別化されている人同士でも、対話すれば共生でき得ることを説いたお話(大戦時の態度や当時の国力差を考慮すれば、二国間に多少の軋轢があったと推察される。)。一応ほっこりめでたしエンディングなんですが、イザックの友人グラントの振る舞いが影を落とします。

人間の“適応力”はストレスを軽減するため、善悪を噛み分けないほど高いので、何にでも慣れてしまうのが恐ろしいところ。本編で丸々切り抜かれたグラントの最後の行動原理が(フォルケを殺そうとまでしたグラントが、イザックがいなくなったのでフォルケにイザックを見出だす)、反省や許容や慈愛の類いであればいいけれど、もしかすると「単に孤独に耐えられなかっただけ」かもしれないわけです。

はたから見れば同じ結果でも、積極的な選択の結果か、消極的な選択の結果かにより、当人の精神状態は全く違うわけで、グラントが寂しかっただけでフォルケを友としたのならば、ここは人間の精神の鈍さと脆さが浮き彫りになっているくだりであり、「幸せなんだからいいじゃないか。」という優しい擁護もまた寂しく響くんですよね。

この辺りを明確にしなかったのは意図的でしょうし、流れ的にはハッピーエンドなんでしょうけど、ぬくぬくホットミルクかと思いきやピリッと生姜の効いたような味わいで、それが逆に良かったですね~♪