回想シーンでご飯3杯いける

ある過去の行方の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

ある過去の行方(2013年製作の映画)
4.3
イランの映画監督アスガー・ファルハディによる2014年の作品。ずっと観たかったのだが、amazonプライムで配信されているのを見付けた。

4年間から別居していた夫婦が、正式な離婚手続きのために再会する話なのだが、一見地味に思える題材から物語が広がっていく構成が凄い。妻が一緒に暮らし始めた子持ちの男と、かつて夫婦だった2人の娘。その4人が住む家に、かつての夫が訪れる事で、4人が抱える葛藤や不安が少しずつ表面化していく。

最初は、新しい男と息子が何となく嫌な人達に見えていたのだが、彼等には彼らの過去があり苦悩がある。一方で聡明に見えていた妻にも自分勝手な部分があって、更にその娘には父親に対する強い愛着がある。誰も悪くないのだが、誰にだって大切にしたい人や感情があるので、そうそう簡単には丸く収まらないのである。

こういう善悪の判断だけでは割り切れない群像劇を観る時、本作のようにあまり顔が知られていない俳優の方が、先入観なく作品の世界に浸れるので良い。子役も含めて皆魅力のある人ばかりで、特に妻を演じるベレニス・ベジョは、本作でカンヌ国際映画祭で女優賞を獲得しただけあり、美しさはもちろん、強さと弱さの両面を表現する姿が魅力的で、画面から目が離せなかった。

映画の中に共感や人生の教訓を期待するタイプの人には辛口すぎる内容かも知れないけど、人間の色んな側面を見られる、とても中身の濃い作品だと思う。