優しいアロエ

アナと雪の女王の優しいアロエのレビュー・感想・評価

アナと雪の女王(2013年製作の映画)
3.2
【過去鑑賞作品 48】

〈愛というぬるま湯で氷を溶かした重罪〉

 『Let It Go』までは素晴らしく、あとはダメダメな “白い『キャリー』”。生まれもった性質とそれに対する悩みは、愛などでは解決しません。

 エルサが能力を制御できず、山の奥へと逃げ込むところは、『Let It Go』も相まって本当に素晴らしい。氷の魔法は美しくも危険。力を抑えることを強要されてきたエルサが厭世を極める。自分の素質が周りに迷惑をかけているのではと思う節は自分にもあるし、誰とも関わらずに生きられたら案外幸せかもなと思うときもあるから、エルサにはかなり共感してしまう。

 キャラクターの特殊能力を「自身の特性と向き合うこと」「マイノリティとしての苦悩」と重ね合わせた作品と言えば、『キャリー』や『シザーハンズ』『シックス・センス』、『X-MEN』シリーズと枚挙に暇がない。それこそ今公開している『ドクター・スリープ』にもその側面があるし、この『アナと雪の女王』もそのなかのひとつと言えるだろう。(ちなみに、『ボーダー 二つの世界』はこのテーマを逆手にとった作品で、単に特性の話かと思ったらそうではないというところに妙味があった)

 しかし、本作は『Let It Go』以降がまぁぬるい。アナやクリストフ、オラフたちの冒険パートがメインとなるわけだが、彼女らの言動は軽薄なコメディそのもの。そもそも、エルサにしんみりとしているのに、すんなりと軽いムードに入り込めるわけがない。果たしてこの物語にアイスブレイキングは必要あったのだろうか。たしかに子ども受けするシーンを確保したい気持ちはわかるし、マイノリティを解ってやれていない周りの無能さを強調しているのだと捉えられなくもないのだが、もう少しエルサパートのシリアスな雰囲気を壊さないようにしてくれてもよかっただろう。

 加えて、アナの「性悪な男に騙されてしまったけど、最後はよい男性に出会えた」姿を通して女性の価値観まで説いているところが蛇足だと感じる。なんだか「よい男と結婚することが幸せ」という古い考え方を前提にしているような気がする。クリストフとアナをくっつかせようと煽るトロールたちはお節介な親戚そのものだろう。ハンスのあからさまな悪人造形にも鼻白むし、「貧しい男=善良」「貧しい男が本当の幸せを知っている」みたいな設定からもそろそろディズニーは脱却してほしい。

 そして、本作最大のよくなかったと感じる点は、エルサの結末である。国中を銀世界に変えてしまったが、元に戻せないエルサ。「どのように世界を元に戻すか」がマクガフィンとなり、それを通してエルサの成長なりメッセージなりが浮き彫りになるはずだから期待がかかる。別に戻せないなら戻せないでそれもひとつの答えだと思うし、もちろんハッピーエンドでも描き方によっては素晴らしいものになるはずだ。

 しかし、本作は「愛」の力で、アナを思う気持ちによって、世界の氷を溶かすのだ。そんな簡単な話でいいのか。エルサが自分の力を受け入れて、他の人も受け入れてくれて、という終わり方は大変結構なのだが、自分の性質なんてそんな都合よくコントロールできるものではないだろう。体格でも性格でも性癖でも障がいでも、生まれもった性質というのはそう簡単に解決できるものではないし、前向きに捉えられるものでもないと私は思う。それは家族や友人の理解があったとしてもだ。

 総じて、アナパートをもっとガリガリと削って、エルサの葛藤をじっくりと描くべきだった。ただ、このたび観返して好きなシーンは好きだと再確認できたし、エルサはディズニーキャラクターのなかでも自分に近くてかなり好きなキャラなので、遅ればせながら『アナ雪2』、キメてこよう。物語のキャリーの仕方次第でこの話は絶対よくなる。
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