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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌のsoのレビュー・感想・評価

3.5
世に評価されないままに日々を送る一人のフォークシンガーの物語。

舞台は1961年のNY。
この映画について、当時のフォークシーンを「よく描けている」と「嘘ばっかり」の賛否両論があったらしく、ということはおそらく「嘘ばっかり」なんだろうなと僕は思ってしまうが、この映画の本質はフォークシーンの再現にあるのではなく、いつの時代にもいる、ある人間の存在を描くことにあるのだと思う。
それは、反吐が出るような周囲の全てに毒づき反抗するが、たとえばふと目にしたトイレの壁に書かれた「What are you doing?」の一言に心をかき乱され、自分を保って生きていくことにも疲弊してしまうような人間。
強さと弱さを兼ね備えギリギリの状態で生きるそんな人間の一人として、フォークシンガー、ルーウィン・デイヴィスは描かれている。
そんな彼の心情を映し出すように、冬のNYの風景は寂しく、シカゴへの旅路もひたすら暗い。そして切実な思いで彼が歌っても、相手の顔は影で隠されている。自分一人が宙に浮かんだようで、ただ時だけが過ぎてゆく。

とにかくルーウィン・デイヴィス演じるオスカー・アイザックの歌がとても良いので、こんな救いのない話でも、鑑賞後には、あたたかい余韻が胸に残る。
コーエン兄弟らしく、ほろ苦くも、人生への愛情が滲む映画。
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